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こんにちは。神奈川県川崎市、武蔵小杉駅北口すぐの「武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科」院長の大熊喜彰です。
6月に入り、青空の下でのバーベキューやガーデニングなど、屋外でのアクティビティが心地よい季節になりましたね。ご家族でのお出かけを楽しまれている妊婦さんも多いのではないでしょうか。
さて、これまで連載してきたブログシリーズ「小児科医から妊婦さんへのお願い」も、今回がいよいよ最終回となります。これまではワクチンで防げる病気(RSウイルス、百日咳、インフルエンザ、風疹)や、上の子からの感染に注意が必要なウイルス(サイトメガロウイルス)のお話をしてきましたが、最後を締めくくるテーマは「寄生虫」、その名も「トキソプラズマ」です。
「うっかり生ハムを食べちゃったけれど大丈夫かな…」
「家に猫がいるから、赤ちゃんへの影響が心配!」
妊娠中、ふとネット記事をみて不安でいっぱいになってしまった経験はありませんか?
実は2026年2月、日本の『トキソプラズマ妊娠管理マニュアル』が改訂され、検査や感染源に関する非常に重要な最新情報が発表されました。
今回は、ネットの古い情報に振り回されて過度な不安を抱え込まないよう、日本専門医機構認定小児科専門医の視点から「最新の正しい知識と予防の鉄則」を分かりやすくお話しします。
トキソプラズマは、目に見えないほど小さな「寄生虫(原虫)」の一種です。 健康な大人が感染しても、軽い風邪のような症状が出るか、あるいは全く症状が出ない(無症状)ことがほとんどです。また、一度感染すれば免疫ができるため、それ以降は心配ありません。
しかし、「妊娠中に初めて感染した場合(初感染)」だけは注意が必要です。 お母さんの胎盤を通じてお腹の赤ちゃんに感染してしまうと、「先天性トキソプラズマ症」を引き起こすリスクがあります。赤ちゃんに感染した場合、脳に水が溜まる(水頭症)、脳内の石灰化、視力障害(網脈絡膜炎)、あるいは運動や知能の発達の遅れなど、重篤な障害を引き起こす可能性があるのです。
「そんな怖い寄生虫なら、どう対策すればいいの…」とパニックになる必要はありません。まずは最新のデータを見てみましょう。
約7割は赤ちゃんに感染しない
もし妊娠中にお母さんが初めてトキソプラズマに感染してしまったとしても、約70%は赤ちゃんには感染しません。
赤ちゃんに感染しても、約85%は無症状
万が一赤ちゃんに感染してしまった場合でも、生まれたときに何らかの症状を発症するのは全体の「約15%」です。つまり、約85%の赤ちゃんは無症状で生まれてきます。
このように、「感染=必ず重篤な障害が出る」わけではありません。ただし、無症状で生まれても成長とともに視力障害などが現れる(遅発型)こともあるため、「妊娠中の初感染を全力で防ぐこと」と「産後の適切なフォローアップ」が極めて重要になります。
トキソプラズマの感染ルートは明確に限られています。以下の4つのポイントさえ押さえておけば、むやみに恐れることはありません。
最も多い感染ルートです。豚・牛・鶏はもちろんですが、特に近年人気のジビエ(エゾシカの約半数が感染しているというデータもあります)には細心の注意を払いましょう。
レアステーキ、ローストビーフ、ユッケ、生ハム、サラミなどは妊娠中は我慢し、「お肉の色が完全に変わるまで中心部までしっかり加熱する」ことが鉄則です。また、調理前のお肉を数日間しっかり冷凍(-20℃で24時間以上)することも、寄生虫を不活化させるために有効です。
最新のマニュアルで新たに強調された点として、牡蠣、アサリ、ハマグリなどの「生の貝類」が挙げられます。海外ではこれらが感染源となった事例も報告されているため、妊娠中は貝類にもしっかり火を通すようにしてください。また、飲料水として管理されていない水(井戸水や湧き水など)をそのまま飲むのも避けましょう。
トキソプラズマは、猫のフンと一緒に環境中に出てきます。完全に室内飼いで、キャットフードだけを食べている猫ちゃんからの感染リスクは極めて低いですが、念のため妊娠中は「猫のトイレの砂交換は、妊婦さん以外の家族が毎日行う」ように分担しましょう。手洗いさえ徹底すれば、愛猫と触れ合ったりスキンシップをとったりすることは問題ありません。
猫のフンに含まれたトキソプラズマは、公園の砂場や花壇の土の中で1年以上も生き続けることがあります。ガーデニングや家庭菜園などの「土いじり」をする時は必ず手袋を着用し、終わった後は石鹸と温水で丁寧に手を洗いましょう。また、生野菜や果物はしっかりと洗うか、皮をむいてから口にしてください。

「昨日、中が少し赤いお肉を食べてしまったかもしれない…」
もしそんな不安な出来事があったら、まずはかかりつけの産婦人科へご相談ください。血液検査で抗体の有無を調べることができます。
ここで、妊婦さんの安心につながる最新の医療情報をお伝えします。 これまで、血液検査で「陽性」が出た場合、それが「妊娠前の過去の感染(赤ちゃんへの影響なし)」なのか「妊娠中の初感染(対策が必要)」なのかを詳しく見極めるための検査(IgG avidity検査)は、限られた施設でしか実施できず、自費診療になるケースがほとんどでした。
しかし、2026年2月より、この精密な検査(CLIA法を用いたIgG avidity検査)が保険適用で受けられるようになりました。さらに、万が一妊娠中の初感染が疑われた場合でも、赤ちゃんへの感染リスクを下げるための治療薬(スピラマイシン)も保険適用で処方可能となっています。
不安なときはすぐにかかりつけの産婦人科医療機関にご相談ください。

全6回にわたり、「小児科医から妊婦さんへのお願い」をお届けしてまいりました。 時には少し怖い病気のお話もあり、不安にさせてしまったかもしれません。それでも、この発信を続けたいと考えたのには、理由があります。
それは、「正しい知識さえあれば、防げる悲劇があるから」です。
お腹の中にいる新しい命を守れるのは、お母さんとご家族の「正しい知識」と、「日々のちょっとした行動の選択」の積み重ねです。 妊娠の10ヶ月間。ご自身の体と心を一番に労わりながら、前向きに愛おしい命を育んでいっていただきたいと思います。
無事に出産を迎えられた後、「これって大丈夫かな?」と育児で悩むことがあれば、いつでも武蔵小杉の「森のこどもクリニック小児科・皮膚科」へいらしてください。私たちスタッフ一同は、お子さんの健やかな成長と、ご家族の笑顔を全力でサポートする準備をして待っています。
長文のシリーズにお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
※本記事の内容は、記載時点で最新の研究・エビデンスに基づいて作成しております。ご自身の健康状態に関する判断は、必ず主治医とご相談ください。
<参考>
・国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業「トキソプラズマ妊娠管理マニュアル(第8版)」
・先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症 患者会「トーチの会」HP
【SNSでも情報発信中!】
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Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)
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