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転勤や駐在に伴うご家族の帯同、あるいは留学やご旅行などで海外滞在を予定されている皆さま。日々の生活やお仕事に加え、荷造りや各種手続きなど、渡航に向けたご準備は本当にお疲れ様です。
「武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科」院長の大熊喜彰(小児科専門医)です。
慌ただしい準備の合間に、ふと「現地の医療事情や感染症対策、今のままで大丈夫だろうか」と不安になることはありませんか?
本日は、当院のトラベルワクチン外来(海外渡航外来)でも最も取り扱いが多い「狂犬病」について、最新の医学データや海外での事例を交えながら、小児科専門医の視点から詳しく解説いたします。
狂犬病と聞くと、日本国内にいる私たちにとっては全く実感が得られないと思います。
しかし、現在でも世界中の多くの国で流行が続いており、一度発症してしまうと現代の最新医学をもってしても有効な治療法がなく、致死率はほぼ100%という極めて重篤な感染症です。
一方で、渡航前の適切なワクチン接種によって、発症を確実に防ぐことができる病気でもあります。
海外での滞在を安全で実りあるものにしていただくために、まずは近年実際に起きた2つの痛ましい事例から、その意外なリスクを知ってください。感染源は、私たちがつい気を許してしまう「子犬」と「コウモリ」でした。
狂犬病というと「口から泡を吹いて凶暴化した大型犬」をイメージされる方が多いのではないでしょうか。しかし、実際の臨床研究が示すデータは少し異なります。
2024年7月、大分大学と長崎大学の研究グループが国際学術誌『Frontiers in Microbiology』で発表したフィリピンでの調査(151例の狂犬病患者を対象とした前向き患者登録研究)によると、ヒトへの狂犬病感染の最も主要な原因動物は、成犬ではなく「子犬」でした。
なぜ、成犬ではなく子犬からの感染が多いのでしょうか。
その最大の理由は、子犬に甘噛みされたり軽く引っ掻かれたりした程度の「軽度のケガ」だと、受傷した本人が「これくらいなら大丈夫だろう」と自己判断してしまい、医療機関で予防的な処置を受けないからです。
実際に2019年、フィリピンで道端の弱った子犬を保護したノルウェー人女性が、帰国後に狂犬病を発症して亡くなるという悲しい出来事も起きています。
子どもは好奇心の塊です。小さくて愛らしい動物を見れば、無邪気に手を出してしまいます。
診察室でも、「実は昨日、公園で野良猫に引っ掻かれたんだけど、怒られそうだからママには内緒にしてた」と、こっそり打ち明けてくれるお子さんもいます。
日本国内であれば過度な心配はいりませんが、たとえ先進国であったとしても狂犬病の発生国では話が別です。「大人の目が届かないところで起きた小さなケガ」が、命取りになってしまうのです。
もう一つ、注意喚起として共有したいのが、CNNで報じられたカナダでの事例です。
2024年、カナダで家族旅行中だった11歳の男の子が夜中に目を覚ますと、自分の顔の上にコウモリが止まっていました。男の子は手で払い、父親がすぐに振り払いコウモリは屋外へ。
このとき、男の子の体に目立った噛み跡や引っ掻き傷が見当たらなかったため、ご家族は「病院に行く必要はない」と判断してしまったのです。
数カ月後、男の子は狂犬病を発症しました。小児集中治療室(PICU)で人工呼吸器を装着し懸命な救命処置が行われましたが、入院から17日後に亡くなられました。その後のPCR検査により、コウモリ由来の狂犬病ウイルス感染が確認されています。
強くお伝えしたいのは、「先進国だから大丈夫ということはない」こと、「コウモリとの接触は、目に見える傷がなくても極めてハイリスクである」ということです。
コウモリの歯は針のように極めて細く小さいため、噛まれても痛みを感じにくく、肉眼では傷跡が確認できないケースが多々あります。流行地域でコウモリに直接触れたり、寝室に入り込まれたりした可能性がある場合は、傷の有無にかかわらず直ちに医療機関を受診しなければなりません。
狂犬病ウイルスは哺乳類の唾液に含まれ、傷口から体内に侵入します。その後、末梢神経を伝って非常にゆっくりと脳へ向かって進んでいきます。
脳にウイルスが到達して発症すると、発熱や頭痛などの初期症状から、やがて興奮状態やけいれん、水を怖がる「恐水症」といった特異的な症状が現れます。ワクチンの最大の目的は、ウイルスが脳へ到達する前に免疫の力で食い止めることです。
万が一、海外で動物に噛まれたり引っ掻かれたりした場合は、まず流水と石鹸で15分以上傷口を念入りに洗い流し、直ちに現地の医療機関へ駆け込んでワクチンを打つ「曝露後接種(ばくろごせっしゅ)」を受けるのが原則です。
「それなら、現地で噛まれてから病院に行けばよいのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、医療インフラが限られた途上国や地方都市では、安全性が担保されたワクチンが速やかに入手できるとは限りません。
さらに、重症の咬傷時に必須となる「抗狂犬病免疫グロブリン(RIG)」という特殊な製剤は、世界的に慢性的な品薄状態が続いており、現地での緊急調達は極めて困難です。
そこで強く推奨されるのが、出発前に日本国内でワクチンを接種しておく「曝露前接種(ばくろぜんせっしゅ)」です。
渡航前にあらかじめ基礎免疫を作っておくことで、現地で万が一の事態が起きた際にも次のような大きなメリットがあります。
発症までの時間を稼ぐことができる(潜伏期間を延ばす)
現地で入手が極めて難しい「抗狂犬病免疫グロブリン」の投与が原則不要になる
受傷後に必要となる追加接種の回数を減らし、現地での身体的・精神的な負担を最小限に抑えられる
国際的なガイドラインに照らし合わせても、動物と触れ合うリスクを完全には回避しにくいお子様や、中長期にわたり海外へ滞在されるご家族には、確実な保険として渡航前の事前接種を強くお勧めいたします。

「渡航先によって、どのワクチンを優先すべき?」 「限られた出発までの期間で、どうスケジュールを組めばいい?」
渡航先や滞在期間、生活環境によって必要なワクチンは大きく異なり、複数ある予防接種のスケジュールをご自身だけで組み立てるのは非常に難易度が高い作業です。
当院のトラベルワクチン外来における大きな特徴は、「小児科専門医」「感染症専門医」の資格を持つ医師が在籍している、大人もお子様もご家族一緒に診察を行っている点です。
お子様の定期接種の進捗状況も確認しながら、家族全員の渡航スケジュールに合わせて最適な接種プランをご提案いたします。大人用と子ども用で別々の病院に通う必要はありません。
ご家族皆さまが安心して笑顔で海外生活をスタートできるよう、スタッフ一同、万全の体制でサポートいたします。
トラベルワクチン外来のご予約や接種スケジュールの事前相談は、お電話(044-739-0888)にて承っております。
複数のワクチンを接種する場合、完了までに数週間から数カ月を要することがあります。海外渡航が決まりましたら、無理のない計画を立てるためにも、ぜひお早めにご相談ください。
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当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)
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