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当院のブログシリーズ「小児科医から妊婦さんへのお願い」も、今回で第4回を迎えました。
第1回から第3回までは、「アブリスボ(RSウイルス)」や「Tdap(百日咳)」、「インフルエンザ」といった、お母さん自身がワクチンを打って赤ちゃんに免疫をプレゼントする「母子免疫」のお話を中心にお伝えしてきました。
しかし今回のテーマは、これまでとは全く状況が異なります。 テーマは「風疹(ふうしん)」とその感染予防について。
なぜ状況が違うのか。それは、風疹ワクチンは、妊娠中のお母さんは「絶対に打つことができない」からです。だからこそ、今回は妊婦さんご本人だけでなく、一緒にこの記事を読んでくれているかもしれない「パパ」や「同居しているご家族」に向けて、小児科専門医としてどうしても伝えたいお願いがあります。
「風疹なんて、子どもの頃にかかる病気でしょう?」
「大人がかかっても、三日ばしかって言うくらいだし、すぐに治るのでは?」
そんな風に軽く考えている方もいらっしゃるかもしれません。確かに、健康な大人が感染した場合、発熱や発疹、リンパ節の腫れが出ても、数日で自然に治ることがほとんどです。
しかし、妊娠初期(特に妊娠20週頃まで)の妊婦さんが初めて風疹ウイルスに感染すると、事態は一変します。
お母さんの血液を通って、お腹の赤ちゃんにウイルスが感染してしまうと、「先天性風疹症候群(CRS)」という極めて重い障害を引き起こす危険性があるのです。 具体的には、生まれつき耳が聞こえにくい(難聴)、目が見えにくい(白内障や緑内障)、心臓の形に異常がある(先天性心疾患)、あるいは精神や身体の発達に遅れが出るといった症状が現れます。
「あの時、満員電車に乗らなければ」
「もし家族が外からウイルスを持ち込んでいなければ」
感染経路は目に見えません。だからこそ、後になってどれだけ悔やんでも悔やみきれません。なかったことにもできません。一つの小さな命の未来を大きく左右してしまうこの病気の恐ろしさを、私たち小児科医は痛いほど知っています。
産婦人科での初期の妊婦健診で、血液検査を受けると思います。その際、お医者さんから「風疹の抗体価が少ないですね。人混みを避けてください」と指導され、不安な日々を過ごしているお母さんも多いのではないでしょうか。
先ほどお伝えした通り、風疹を防ぐためのワクチン(主に麻しん風しん混合のMRワクチン)は、ウイルスの毒性を弱めて作った「生ワクチン」です。お腹の赤ちゃんへの影響を考慮し、妊娠中の女性は接種することが禁忌(打ってはいけない)とされています。
自分がバリアを持っておらず、今からワクチンでバリアを張ることもできない。 そんなお母さんとお腹の赤ちゃんを守るための唯一の防衛策が、「コクーン(繭)戦略」です。
お母さんがバリアを張れないなら、どうするか。 答えはとてもシンプルです。お母さんの周りにいる人たちが全員ワクチンを打ち、お母さんをウイルスから守る「繭(コクーン)」になればいいのです。

つまり、お腹の赤ちゃんを守れるかどうかは、パパや同居しているご家族の「抗体」にかかっていると言っても過言ではありません。 「自分は健康だから大丈夫」「子どもの頃にかかった『気がする』」という曖昧な記憶が一番危険です。風疹によく似た別の発疹性のウイルス感染症を、風疹だと思い込んでいるケースは多々あります。
日本の予防接種制度の変遷により、現在30代後半から50代の男性には、過去に風疹ワクチンの十分な公的接種機会がなかった世代が存在します(国の第5期定期接種の対象となった昭和37年4月2日〜昭和54年4月1日生まれの男性など)。だからこそ、まずは「今の自分に抗体があるかどうか」を血液検査で正確に知ることが、父親になるための第一歩なのです。
「でも、検査やワクチンって自費だと高いんじゃないの?」と心配されるパパさん。ご安心ください。 当院がある川崎市では、赤ちゃんを風疹から守るための手厚いサポート「川崎市風しん対策事業」が実施されています。
【対象となる方】
川崎市に住民登録があり、過去に風疹にかかったことがなく、本事業を利用したことがない方のうち、以下のいずれかに該当する方。
妊婦のパートナー(同居者)
妊娠を希望する女性とそのパートナー
この川崎市の事業を利用すると、以下のステップで手厚い助成が受けられます。
抗体検査が「無料(自己負担なし)」
まずは当院で採血を行い、現在の抗体価を調べます。
ワクチン接種が「自己負担3,200円(税込)」
約1週間後、検査結果をご説明します。もし「抗体が十分でない(風疹を防ぐ力がない)」と分かった場合には、MR(麻しん風しん混合)ワクチンの接種費用が市から一部助成され、3,200円で接種を受けることができます。
※注意事項
昨今、全国的にMRワクチンの供給が不安定になる時期があります。当院でも状況によってはワクチンの在庫が少なく、入荷までお待ちいただく場合がございます。ただし、まずは「自分に抗体があるか」を調べる抗体検査(採血)はいつでもすぐに可能です。抗体が十分にあればワクチンは不要ですので、まずは検査だけでも早めに受けておくことを強くお勧めします。
そして、無事に出産を終えたお母さんへ。 妊娠中に「抗体が少ない」と言われていた方は、出産後、産後1ヶ月健診などの時期に、ご自身が必ず風疹ワクチン(MRワクチン)を接種してください。 授乳中のワクチン接種は赤ちゃんへの悪影響はなく、全く問題ありません。これは、数年後に授かるかもしれない「次の赤ちゃん」を守るための、非常に重要な準備です。
妊娠中の限られた約10ヶ月間、お母さんはつわりや身体の変化と闘いながら、文字通り命懸けでお腹の赤ちゃんを守っています。
パパにできる最高の出産準備。それは、ベビーベッドを組み立てることでも、可愛いお洋服を買うことも重要ですが、ご自身の袖をまくり、ほんの少しチクッとする採血や注射を受けて、家族をウイルスから守る「無敵の盾」になることもとても重要です。
「小児科に大人の男が行ってもいいの?」なんて恥ずかしがる必要は全くありません。当院には、奥様やお腹の赤ちゃんのために来院される素敵なパパさんがたくさんいらっしゃいます。
「僕も対象になるかな?」「検査の予約を取りたい」 そう思ってくださったパパさん、ぜひ武蔵小杉の当院(044-739-0888)へお気軽にお電話ください。スタッフ一同、ご家族の健康づくりを全力でサポートいたします。
次回、シリーズ第5回は「サイトメガロウイルス」についてです。特に「上のお子さんがいる妊婦さん」は絶対に知っておいていただきたい、日常に潜む感染予防のお話です。お楽しみに!
※本記事の内容は執筆時点の川崎市の制度や医療情報に基づいています。ご自身の健康状態や最新の助成状況については、必ず医師や自治体のホームページにてご確認ください。
【SNSでも情報発信中!】
当院のSNSでは、小児科・皮膚科に関する役立つ情報や、季節ごとの病気の注意点などを発信しています。ぜひフォローしてください!
Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)
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