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新しいブログシリーズ「小児科医から妊婦さんへのお願い」をスタートいたします。 これから新しい命を迎えるプレママ・プレパパの皆様に、どうしても知っておいていただきたい「ワクチン」と「感染症」のお話を全6回にわたってお届けします。
記念すべき第1回のテーマは、今まさに大きな話題となっているRSウイルス母子免疫ワクチン「アブリスボ®」です。
「先生、生まれてくる赤ちゃんのために妊婦が打てるワクチンがあるって聞きました。打った方がいいですか?副反応は何かありますか?」
最近、上のお子さんの診察に付き添っていらっしゃる妊婦さんから、こんなご質問をいただくことがとても増えました。
お腹の中で少しずつ大きくなる命。
「この子を守るためにできることは、全部やっておきたい」
今日から始まるブログシリーズ「小児科医から妊婦さんへのお願い」。第1回は、いよいよ2026年4月から川崎市で定期接種(全額公費のため支払いなし)となる、RSウイルス母子免疫ワクチン「アブリスボ®」についてです。これは、私たち小児科医が長年待ち望んでいた、赤ちゃんの命を守るための画期的なニュースです。

「RSウイルス」は保育園に通うお子さんがいらっしゃるご家庭なら、一度は耳にしたことがある感染症だと思います。大人がかかってもちょっとした風邪で済みます。でも、生まれたばかりの小さな赤ちゃんや乳児にとっては違います。
夜間の救急外来や冬の病棟で、私はこれまで何度もRSウイルス感染症による怖い経験や悲しい経験をしてきました。 生後数ヶ月の赤ちゃんがRSウイルスに感染すると、細い気管支がゼーゼーと鳴り、息を吸うたびに胸がペコペコとへこむ「陥没呼吸」を起こします。小さな胸を必死に上下させ、おっぱいを飲む体力は奪われていく。さらに恐ろしいのは、突然息が止まってしまう「無呼吸発作」です。
特効薬はありません。私たち医療者にできるのは、酸素を投与し、点滴で水分を補い、赤ちゃんの小さな体が自力でウイルスに打ち勝つまで、付きっきりでサポートすることだけです。「変われるものなら、私が代わってあげたい…」。ベッドサイドで涙を流すお母さんたちの姿を何回も見てきました。
だからこそ、「病気にかかってから治す」のではなく、「かかる前に守り抜く」ことが、どれほど価値のあることかを知っていただきたいと思っています。
そこで登場したのが、RSウイルス母子免疫ワクチン「アブリスボ®」です。
このワクチンの素晴らしいところは、小さな赤ちゃんに痛い注射をするのではなく、「妊娠中のお母さん」に接種する点です。 妊娠28週〜36週(承認上は24週から可能ですが、この時期が最も推奨されます)にママがワクチンを打つと、ママの体の中でウイルスと戦う「抗体」が作られます。それが、へその緒と胎盤という命のパイプラインを通って、お腹の赤ちゃんへとどんどんプレゼントされていくのです。
この「母子免疫」という仕組みのおかげで、赤ちゃんは生まれたその瞬間から、RSウイルスと戦う強力な盾(抗体)を持った状態でこの世界に産まれてくることができます。実際のデータでも、生後6ヶ月までの入院が必要なほどの重症化を約80%も防げるという、極めて高い効果が確認されています。
これまで、このワクチンは任意接種だったため、当院でも35,200円(税込)という費用がかかりました。決して安い金額ではありません。出産準備でお金がかかる時期、「本当は打ってあげたいけれど…」と悩まれるご家族の背中を見るのは、私も辛いものがありました。
しかし、ついに状況が変わります。2026年4月より、このアブリスボが国の定期接種となります。 当院がある川崎市でも、対象となる妊婦さんは「全額公費」、つまり自己負担ゼロ(無料)で接種できるようになりました。対象年齢や週数、予診票の受け取り方法などの詳細については、ぜひ下記の川崎市公式ホームページをご確認ください。
▶ 川崎市:妊婦向けRSウイルスワクチン(アブリスボ)の定期接種について
https://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000184432.html
さて、ここで一つ疑問が浮かぶかもしれません。「妊婦のワクチンなら、健診に通っている産婦人科で打てばいいのでは?」と。 もちろん、かかりつけの産婦人科で打てるならそれが一番です。ただ、当院でアブリスボを接種される妊婦さんからは、こんなお声をよくいただきます。
「子どもが生まれた後にお世話になる小児科の下見として来ました!」
産後は、慣れない授乳や寝不足で本当に目の回るような忙しさです。その中で、「湿疹が出た」「おへそが乾かない」と慌てて小児科を探すのはとても大変です。だからこそ、妊娠中の少し余裕がある時期に、ご自身の目で「院長はどんな人か」「クリニックの雰囲気はどうか」を確かめに来られるのです。
さらに、小児科専門医である当院ならではの強みもあります。 それは、「百日咳」を予防する成人用3種混合ワクチン(Tdap:輸入ワクチン)も接種ができること。百日咳もまた、小さな赤ちゃんにとっては命に関わる恐ろしい病気です。欧米では妊婦さんのTdap接種は常識ですが、日本の産婦人科ではまだ取り扱いが少ないのが現状です。当院なら、赤ちゃんを守るための世界標準のワクチン戦略を、一度の受診でまとめて立てることができます(※Tdapは自費での接種となります)。
また、上のお子さんの受診と一緒に、お母さんのアブリスボ接種を済ませてしまうことも可能です。「ママが注射頑張るから見ててね!」なんて、ご家族みんなで診察室に入っていただけるのも、小児科ならではの風景です。海外赴任に向けたトラベルワクチンのご相談なども含め、ご家族のライフスタイルに合わせた医療を提供しています。
最後に、大切な副反応の話です。ワクチンですから、打った場所が少し腫れたり、痛みが出たりすることはあります(筋肉注射なので少し痛いです。当院のスタッフは極力痛くないよう工夫しています!)。また、接種後14日以内に出産に至った場合、赤ちゃんへの抗体の移行が十分でない可能性があります。しかし、これまでの膨大なデータから、このワクチンが原因で早産が増えたり、赤ちゃんに異常が出たりといった重大なリスクは報告されていません。
制度は2026年4月から始まりますが、もし現在妊娠中で「4月まで待てない」という方には、自費での接種も引き続き行っております。
川崎市の場合、条件がそろえば自費接種の救済措置があります。上記の川崎市URLを確認してください。
「打った方がいいのかな?」
「自分の週数だといつ予約すればいい?」
迷った時は、当院へお電話(044-739-0888)でご相談ください。生まれてからの「あたまの形外来」や「アレルギー専門外来」など、産後のサポートの準備も万全に整えてお待ちしています。
ママの体から赤ちゃんへ贈る、最初で最高のプレゼント。 私たちと一緒に、小さな命を迎える準備をしませんか?
次回、シリーズ第2回は先ほど少し触れた「百日咳予防の成人用3種混合ワクチンTdap」について、もっと詳しくお話しします。お楽しみに!
(※本記事の内容は執筆時点の医療情報・自治体情報に基づいています。ご自身の健康状態に関する判断は、必ずかかりつけ産科医師にご相談ください。)
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Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)
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