じめじめとした暑い日や、汗をたくさんかく季節になると、「うちの子の肌に赤いポツポツができたけど、これって何だろう?」と心配になって来院される方が増えます。
「もしかして、あせも?」
「ニキビみたいだけど、子どもにもできるの?」
そう、その赤いポツポツは、もしかすると「毛包炎(もうほうえん)」かもしれません。
今回は、この「子どもの毛包炎」について、あせもやニキビとの違い、家庭でできるケア方法、そして皮膚科を受診する目安まで、日本皮膚科学会認定皮膚科専門医の立場から、わかりやすくお話ししていきたいと思います。

毛包炎って、そもそも何?
まず、毛包炎とはどんな病気なのかを、簡単に説明します。
私たちの体には、髪の毛や体毛が生える元となる「毛包(もうほう)」という部分が、全身にたくさんあります。この毛包に、細菌や真菌(カビ)が感染して炎症を起こしてしまうのが「毛包炎」です。
どんな細菌や真菌が原因になるの?
毛包炎の原因菌として最も多いのは、誰もが体の表面に持っている「黄色ブドウ球菌(おうしょくぶどうきゅうきん)」という細菌です。この菌は、通常であれば特に悪さをすることはありません。しかし、汗をかいて肌がふやけたり、小さな傷があったり、あるいは免疫力が低下しているような時に、毛穴の奥に入り込んで増殖し、炎症を起こしてしまうのです。
また、後述する「マラセチア毛包炎」の原因となる、カビの一種である「マラセチア菌」も、毛包炎を引き起こす重要な原因の一つです。
どんな見た目なの?
毛包炎の見た目は、毛穴を中心とした、小さな赤いブツブツや、膿を持った白いニキビのようなできものです。一つだけできることもあれば、いくつもまとまってできることもあります。
細菌性の毛包炎は、かゆみはほとんどないことが多いのですが、炎症が強くなると少し痛みを伴うこともあります。
よく似ている「あせも」「ニキビ」との見分け方は?
「先生、これってあせもじゃないんですか?」とよく聞かれます。確かに、見た目がよく似ているので見分けが難しいですよね。
ここでは、それぞれの特徴を比較して、簡単に見分けるポイントをお伝えします。
【見分けるポイント】
- かゆみがあるか?
かゆみが強い場合は「あせも」や「マラセチア毛包炎」の可能性が高いです。
- できる場所は?
汗がたまりやすい関節のくぼみなどにできやすいのが「あせも」、毛が生えている場所ならどこでもできる可能性があるのが「毛包炎」です。
- 見た目は?
ニキビのように毛穴の真ん中に膿を持っているものは「毛包炎」や「ニキビ」の可能性が高いです。
ただし、これらはあくまで目安です。お子さんの肌のことで少しでも不安があれば、迷わず皮膚科を受診してください。
どんな時に毛包炎になりやすいの?
毛包炎は、お子さんの肌が下記のような状態のときに、特にできやすくなります。
- たくさん汗をかいた後:汗でふやけた肌は、細菌が侵入しやすくなります。
- 虫刺されなどをかきむしった後:肌にできた小さな傷から細菌が入ってしまいます。
- アトピー性皮膚炎などで肌のバリア機能が低下している時:肌を守る力が弱くなっているため、感染しやすくなります。
- 風邪などで体力が落ちている時:免疫力が低下すると、細菌に負けやすくなります。
特に、汗をかく機会の多い夏場や、活発に動き回るお子さんは注意が必要です。
家庭でできる「毛包炎」の治し方と予防法
毛包炎は、軽度であれば自然に治ることもあります。しかし、家庭でできる正しいケアをすることで、治りを早め、悪化を防ぐことができます。
1. 清潔に保つ
まず何よりも大切なのが、肌を清潔に保つことです。
- 汗をかいたら、こまめに拭く:濡らしたタオルなどで優しく汗を拭き取ってあげましょう。
- お風呂では、優しく洗う:ゴシゴシこすらず、泡立てた石鹸で優しく洗ってください。抗菌石鹸は、かえって肌の常在菌バランスを崩してしまうことがあるので、普通の石鹸で十分です。
- 洗った後は、しっかり保湿:肌の乾燥を防ぐことで、バリア機能を保ちます。保湿剤は、肌に合うものを選んであげてください。
2. 肌を刺激しない
- かきむしらないようにする:かゆみはほとんどないことが多いですが、もしお子さんが気にして触ったり、かきむしったりする場合は、爪を短く切ってあげましょう。
- 通気性の良い服を着せる:汗をかきやすい季節は、綿など吸湿性の良い素材の服を選び、こまめに着替えさせてあげてください。
3. 自然に治るのを待つ
小さな毛包炎は、特別な治療をしなくても、清潔に保っていれば1週間ほどで自然に治ることがほとんどです。
「マラセチア毛包炎」ってどんな病気?
毛包炎の中には、先ほどお話しした「黄色ブドウ球菌」とは違う原因で起こるものがあります。それが、「マラセチア毛包炎」です。
マラセチア毛包炎の原因
マラセチア毛包炎は、カビの一種である「マラセチア菌」が原因で起こります。この菌は、もともと誰の肌にもいる常在菌ですが、汗をかきやすい環境や、皮脂の分泌が多い場所で増えやすく、毛穴に入り込んで炎症を起こしてしまうのです。
どんな症状?
マラセチア毛包炎の症状は、通常の毛包炎と同じように、毛穴を中心とした赤いブツブツができます。しかし、通常の毛包炎と比べて、かゆみが強いのが特徴です。特に、汗をかくとかゆみが増す傾向にあります。
どこにできやすい?
皮脂腺が多い場所、つまりおでこや首、胸、背中などにできやすいです。
治療法は?
マラセチア菌はカビの一種なので、細菌に効く抗生物質の塗り薬は効果がありません。マラセチア毛包炎と診断された場合は、抗真菌薬(こうしんきんやく)の塗り薬や、症状がひどい場合は飲み薬を使って治療を行います。
「あれ?おかしいな」と思ったら、病院へGO!
「でも、どんな時に病院に行けばいいの?」と迷いますよね。次のような症状が見られたら、迷わず当院のような皮膚科を受診してください。
- できものがどんどん増える、大きくなる
- 赤みや腫れがひどく、熱を持っている
- 膿の量が増えたり、黄色くどろっとした膿が出る
- 痛みを伴い、お子さんが嫌がる
- 熱が出たり、元気がなくなるなど、全身の症状を伴う
- かゆみが強く、家庭でのケアでは治らない
- 自己判断で市販薬を塗っているが、改善が見られない
毛包炎を放置すると、まれに「せつ」や「よう」という、より大きな、深い炎症になってしまうことがあります。また、お子さんの肌の症状は、毛包炎だけでなく、アトピー性皮膚炎やとびひなど、他の病気と見分けがつきにくいこともあります。早めに日本皮膚科学会認定皮膚科専門医に相談することが大切です。
治療はどんなことをするの?
病院では、毛包炎の原因に応じて適切な治療を行います。
細菌性の毛包炎の場合は、抗生物質の塗り薬や、場合によっては飲み薬を処方します。 マラセチア毛包炎の場合は、抗真菌薬の塗り薬が中心となります。
自己判断で市販薬を塗ったりせず、必ず医師の指示に従って正しいお薬を使いましょう。
まとめ:大切なのは、お子さんの肌を「よく見てあげること」
今回のブログでは、子どもの毛包炎について、あせもやニキビとの違い、家庭でのケア方法、そして受診の目安についてお話ししました。
日頃から、お子さんの肌に異常がないかを優しく見てあげてください。そして、「あれ?」と少しでも不安に感じることがあれば、いつでも当院にご相談ください。

当院の外観写真
川崎市中原区
アクセス:武蔵小杉、新丸子、元住吉、武蔵中原、日吉
武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
皮膚科学会認定皮膚科専門医
診療チーム