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カレンダーの枚数が少なくなるにつれ、診察室でも受験生をお持ちの親御さんの表情が、真剣そのものになってきているのを感じます。 長かった努力の日々。その成果をたった数日の体調不良で無駄にしたくない。それは、ご本人以上に、そばで支えてきた親御さんの切実な願いでしょう。
「先生、今からできることありますか?」
今回は、「戦略的インフルエンザ対策」を解説します。 従来の対策に加えて「ワクチンの併用(ハイブリッド接種)」と「予防投与」がキーワードです。

まず最初に取り組むべきは、基本のワクチンです。 「ワクチンならもう打ちました」という方も多いかもしれません。
今回は、不活化ワクチン(注射)と、経鼻弱毒生ワクチン(フルミスト)の両方を接種するという方法をご提案します。
「えっ、両方打ってもいいの?」と思われるかもしれませんが、それぞれ役割が異なり、療法接種することのメリットがあります。
ワクチンの効果は半年程度持続するので、早めに流行する年があることも考慮して10~11月の接種をお勧めします。1月から試験が始まることを考えると、おそくとも12月にはワクチン接種は終えておきたいところです。
皆さんが毎年打っている、腕への注射です。
役割(IgG抗体):
ウイルスが体内で暴れまわるのを防ぐ、いわば「最後の砦」。
13歳以上は通常1回の接種ですが、免疫増強効果を期待して2回接種することも可能です。
得意なこと
感染してしまった後に、高熱が出たり肺炎になったりする「重症化」を強力に防ぎます。
苦手なこと
ウイルスの侵入そのもの(感染)をブロックする力は、やや限定的です。
鼻の中にシュッと霧を吹きかけるタイプです。
役割(IgA抗体)
ウイルスが入ってくる玄関口である鼻や喉の粘膜に、直接バリアを張ります。いわば「門番」です。
得意なこと
ウイルスの侵入そのものを防ぐ「発症予防効果」が期待できます。また、生きたウイルスを弱めたものを使うため、流行している株と微妙に型が違っても効果を発揮する範囲が広いのが特徴です。
注射で「最後の砦(重症化予防)」を築き、フルミストで「門番(発症予防)」を配置する。 この二段構えにすることで、ウイルスの侵入を入り口で食い止めつつ、万が一突破されても体内で迎え撃つという、隙のない防御システムが完成します。
また、インフルエンザウイルスは常に変異を繰り返していますが、注射とフルミストでは、予測される流行株に対してアプローチの仕方が異なるため、両方打つことで「守備範囲(カバーできるウイルスの型)」を広げることができます。「予測が外れてワクチンが効かなかった」というリスクを、最小限に抑えるための保険とも言えるでしょう。
「絶対に穴を開けられない」受験生にとって、このハイブリッド戦略は非常に有効な選択肢です。 (※併用する場合の接種間隔については、医師にご相談ください。一般的には4週間程度あけることが推奨されます。)
ワクチンで万全の準備をしていても、家族が職場や学校からウイルスを持ち込んでしまうリスクはゼロではありません。
「試験の3日前に、弟がインフルエンザにかかった!」
「クラスで隣の子がインフルエンザで早退した…」
このようなピンチに、どうしたらよいでしょうか?
「予防投与(予防内服)」という考え方があります。
もともとは、インフルエンザウイルス感染症を発症した患者の同居家族又は共同生活者である65歳以上の方や重篤な基礎疾患がある方に考えられた方法です。これを受験生に転じて行います。
通常は治療のために使う抗インフルエンザ薬を、「発症する前」に使うことで、ウイルスの増殖を未然に防ぐ方法です。(※自費診療となります)
当院で処方可能な主な薬剤と、それぞれの特徴をご紹介します。
特徴
容器に入った粉末を吸入するタイプです。
最大のメリット
1回ないし2回の吸入で完了します。 毎日薬を飲む必要がありません。試験直前や、濃厚接触があった日に1回吸入しておけば、薬剤が喉や気管支の粘膜に長時間とどまり、約10日間ほど予防効果が持続すると言われています。 「勉強に集中したい」「飲み忘れが怖い」という受験生にとって、この「1回で終わる」という手軽さと確実性は大きな武器になります。
特徴
カプセル(またはドライシロップ)の飲み薬です。
メリット
1日1回、7〜10日間服用し続けることで効果を発揮します。最も長く使われている薬で実績が豊富です。ジェネリック医薬品もあるため、費用を抑えたい場合に適しています。
【いつ、どうやって使う?】
家族の発症時
家族がインフルエンザと診断されたら、48時間以内に受診してください。早ければ早いほど、発症阻止率は高まります。
試験本番の直前
「誰も発症していないけれど、試験本番の週だけは絶対に守りたい」という場合、試験の1週間〜10日前にイナビル等を予防投与することも可能です。
この「予防投与」という選択肢があることを知っているだけでも、親御さんの心の余裕は大きく変わるはずです。
最後に、医療の力(ワクチン・薬)の効果を100%引き出すための土台作り、生活習慣のアドバイスです。 これらは「当たり前」のことですが、受験直前の極限状態では疎かになりがちです。今一度、チェックリストとして活用してください。
インフルエンザウイルスは、寒くて乾燥した環境が大好きです。湿度が40%を切ると、咳やくしゃみで飛び散ったウイルスが長時間空気中を漂い続け、生存率が跳ね上がります。 また、喉の粘膜にある「線毛(せんもう)」というブラシのような防御機能は、乾燥すると動きが止まってしまいます。
対策
加湿器はフル稼働させましょう。湿度計を目に見える場所に置き、50〜60%を目指してください。濡れタオルを部屋に干すのも効果的です。
ウイルスを部屋から追い出すには換気が必須ですが、部屋を寒くしすぎては体温が下がり、免疫力が落ちてしまいます。
対策
窓を1箇所開けるだけでは空気は入れ替わりません。対角線上にある2箇所の窓(または窓とドア)を開け、空気の通り道を作ります。1時間に1回、5分程度で十分です。
「ラストスパートだから」と睡眠時間を削って単語を詰め込んでいませんか? それは逆効果です。 記憶は、寝ている間に脳に定着します。そして何より、睡眠不足は免疫細胞の働きを劇的に低下させます。
対策
最低でも7時間は寝ていただきたいところです。睡眠を削って風邪をひくことほど、時間の無駄はありません。質の良い睡眠をとることが、翌日の集中力と免疫力の両方を高めます。
ウイルスは自分の手から口や鼻へ運ばれます。
対策
アルコール消毒も有効ですが、ノロウイルスなども考慮すると、やはり石鹸と流水による手洗いが最強です。指の間、手首まで30秒かけて洗いましょう。
受験は、お子さん一人の戦いではありません。家族一丸となって挑む「団体戦」です。 親御さんにできる最大のサポートは、おいしいご飯を作ること、そして「ウイルスという見えない敵から、環境と知識で守ってあげること」です。
もし、ワクチンのスケジュールのことや、万が一の時の予防薬のことで迷ったら、いつでも相談してください。
【免責事項】
※本記事の内容は一般的な医学情報に基づいています。上記内容は当院で行っている事であり、実際の処方や対応は、お子様の年齢、基礎疾患の有無、地域の流行状況、受診するクリニックによって異なります。必ずかかりつけ医の診断・指示に従ってください。
※フルミストは生ワクチンのため、年齢制限(通常2歳〜18歳)や、接種できない方(免疫不全の方など)の基準があります。
※予防投与は公的保険の適用外(自費診療)となります。薬剤の在庫状況や費用については、事前に受診希望のクリニックへお問い合わせください。
【SNSでも情報発信中!】
当院のSNSでは、小児科・皮膚科に関する役立つ情報や、季節ごとの病気の注意点などを発信しています。ぜひフォローしてください!
Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)
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