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先日、福岡県で起きた痛ましいニュースに、小児科医として深く胸を痛めています。報道によると、マンションの一室で、生後11ヶ月の女の子がブラインドの昇降コードが首に絡まった状態で発見され、その後、懸命な治療にもかかわらず、帰らぬ人となってしまいました。ご家族の悲しみを想像するだけで、私も言葉を失います。
🔗参照記事:ブラインドの紐で窒息死…「ベビーベッドから這い上がり首に絡まったか」生後11カ月女児が自宅で死亡(TBS NEWS DIG)
このような痛ましい事故は、決して他人事ではありません。実は、ブラインドやカーテンの紐による子どもの窒息事故は、国内外で繰り返し報告されている、「知られざる身近な危険」の一つなのです。私たち、「武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科」は、「家族とともに未来を担うこども達の健やかな成長と幸せを目指します」という理念のもと、日々診療にあたっています。だからこそ、この種の悲劇を少しでも減らしたい。その一心で、今回はこの「ブラインドの紐による窒息事故」について、日本小児科学会認定小児科専門医としての視点から、親御さんたちに知っていただきたいこと、そして具体的な予防策を分かりやすくお伝えしたいと思います。
消費者庁HPから引用
「たかが紐じゃないか」と思われるかもしれません。しかし、子どもの世界では、私たち大人が想像する以上に、ごく身近なものが命の危険につながるのです。特に、ブラインドやシェードの昇降コード、ループ状の操作チェーンは、子どもの窒息事故の主要な原因の一つとして、消費者庁からも繰り返し注意喚起されています。
生後数ヶ月から数年という時期の赤ちゃんや幼児は、驚くほどのスピードで成長し、動けるようになります。寝返りができるようになり、ハイハイ、つかまり立ち、そしてよじ登り…。昨日までできなかったことが、今日突然できるようになるのが、この時期の子どもの特性です。
報道にあった福岡の事故でも、女の子はベビーベッドの柵を乗り越えてブラインドに近づき、昇降コードが首に絡まった可能性があるとされています。子どもは危険を認識できません。目の前にある紐は、彼らにとっては好奇心をそそる魅力的なおもちゃなのです。
窒息は、数秒から数十秒という極めて短い時間で起こります。特に乳幼児は、首の筋力が弱く、一度コードが巻き付いてしまうと、自分でそれを解くことができません。
ここで最も重要な注意点があります。
それは、この事故がごく短時間で進行することです。コードで首がしまると、わずか15秒で意識を失い、2〜3分で命に関わる状態になってしまいます。このような短時間では、親御さんが「ちょっと目を離した隙」に事故が発生し、気づいてから助けに行っても間に合わない可能性が非常に高いのです。
さらに、ブラインドやカーテンの紐で首が引っ掛かって窒息する事故は、子どもの事故の中でも特に死亡率が高いことが知られています。米国のデータでも、この種の事故の致死率が7割だったと報告されており、その危険性の高さが浮き彫りになっています。
子どもは静かに遊んでいると思ったら、実は危険な状況に陥っている可能性があるのです。
子どもの安全対策は、エヴィデンスに基づき、「危険を排除する」ことが基本です。特にブラインドの紐に関しては、「見えないようにする」ことと「手が届かないようにする」こと、そして「そもそもループを作らない」ことが鍵となります。
最も簡単な予防策は、紐を子どもの手が届かない位置で固定することです。
これからブラインドを購入する、あるいは買い替える予定がある親御さんは、「コードレスタイプ」や「セーフティジョイント付き」の製品を選んでください。
親御さんは毎日、「子どもの視線の高さ」になって、部屋の中を点検する習慣をつけてください。日常的に「もし、この子がここに立ったらどうなるだろう?」と常に危険を先読みする意識をもつことが大切です。
仕事、家事、育児…。毎日、安全管理まで完璧に行うのは大変なことです。しかし、子どもの事故は、「まさか」「ちょっと目を離した隙に」起こります。そして、ブラインドの紐による窒息は、「知識と行動」によって、防ぐことができる事故なのです。
今回の悲しいニュースは、私たちに「今すぐ行動を」と訴えかけています。この記事を読んだ後、ぜひお子さんの部屋やリビングのブラインドの紐をチェックしてみてください。予防策を実行するのに、遅すぎることはありません。
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当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)