ブログ
Blog
Blog
最近、診察室で気になることがあります。それは、「長く続くしつこい咳」です。
「風邪だと思って様子を見ていたけれど、咳き込みすぎて吐いてしまう」
「夜も咳で眠れない」……
そんな悩みを持って来院されるお子さんが、ここ最近急増しています。
実は今、「百日咳(ひゃくにちぜき)」が流行しています。
今日は、この「百日咳」について、そして「家族みんなで赤ちゃんを守る」ための最新のワクチン戦略についてお話しします。これを知っているかどうかで、お子さんの将来の健康リスクが大きく変わるかもしれません。

Geminiで作画
「百日咳なんて、昔の病気じゃないの?」
そう思われるお母さん・お父さんも多いかもしれません。しかし、それは大きな誤解です。百日咳は現在進行形で流行している脅威です。
百日咳菌という細菌がのどに感染して起こるこの病気は、名前の通り「100日続く」と言われるほど、長くしつこい咳が特徴です。こどもも大人も感染しますが、 特に生後6ヶ月未満の赤ちゃんがかかると、非常に重症化しやすいのが最大の問題です。赤ちゃんはまだ咳をする力が弱いため、咳き込む代わりに「無呼吸発作」を起こし、最悪の場合、命に関わることや脳症などの後遺症を残すこともあります。
コンコンコンコン……ヒューッと、息を吸うときに笛のような音が鳴る。
咳き込んで顔が真っ赤になり、吐いてしまう。
熱はそれほど高くないのに、咳だけがどんどんひどくなる。
夜中、咳き込んで何度も起きてしまう。
もしこれらに当てはまるなら、ただの風邪ではないかもしれません。
「でも先生、赤ちゃんの時に四種混合ワクチン(あるいは五種混合)を打っているから大丈夫ですよね?」
鋭いご質問です。確かに、乳児期に打つ定期接種(DPT-IPV, DPT-IPV-Hib)は非常に有効です。しかし、ここに「免疫の減衰(げんすい)」という落とし穴があります。
エビデンスによると、百日咳のワクチンの効果は、接種完了から4~5年程度で徐々に低下し始めることがわかっています。 つまり、小学校に入学する頃(5~6歳)や、小学校高学年(11~12歳)になる頃には、赤ちゃんの時に得た免疫がほとんどなくなってしまっているのです。
今、流行しているのは、この「免疫が切れた学童期のお子さん」や「大人」です。 大人がかかると「長引くひどい風邪」程度で済むことも多いのですが、怖いのはそこではありません。免疫の切れた兄姉やパパ・ママが感染源となり、まだワクチンの打てない生まれたばかりの赤ちゃんにうつしてしまうこと(家庭内感染)です。
当院では、「家族とともに未来を担うこども達の健やかな成長と幸せを目指す」という理念のもと、国の定めた定期接種の枠組みを超えた、より実効性の高い(本当に子どもを守れる)ワクチンプログラムを推奨しています。海外では百日咳の流行を防ぐため、このような予防が行われています。
通常の定期接種だけではカバーしきれない「免疫の隙間」を埋めるため、以下の4つのタイミングでの接種を強くおすすめしています。
小学校入学前の年長さんの時期、MR(麻しん風しん)とおたふくかぜワクチンの接種はみなさん意識されますが、ここで一緒に3種混合ワクチン(トリビック®)を接種しましょう。
理由
前述の通り、赤ちゃんの頃の免疫が切れ始める時期です。入学後は集団生活で感染リスクが跳ね上がります。この時期にブースター(追加)接種をすることで、小学校生活を元気にスタートできます。
使用ワクチン
国産の3種混合ワクチン「トリビック®」
小学校高学年で受ける定期接種に「2種混合(DT)」がありますが、これは破傷風とジフテリアしか防げません。百日咳が入っていないのです! これを3種混合ワクチン(トリビック®)にグレードアップして接種することを推奨します(※任意接種となります)。
理由
流行状況を見ると、中学生や高校生の百日咳患者さんも少なくありません。受験シーズンに長引く咳で苦しまないためにも、ここで百日咳の免疫を再度ブーストさせることが非常に重要です。
使用ワクチン
国産ワクチン「トリビック®」。
ここが非常に重要です。「マタニティ・ワクチン」という考え方です。 妊娠中にママがワクチンを打つことで、ママの体で作られた抗体(免疫)が胎盤を通じて赤ちゃんにプレゼントされます。
理由
赤ちゃんが自分でワクチンを打てるようになるのは生後2ヶ月からです。この「生まれてから2ヶ月間」の無防備な期間を、ママからもらった免疫で守るのです。
使用ワクチン
輸入ワクチン「Tdap」。
※なぜ輸入?
日本の3種混合ワクチンは成人が打つと接種部位が腫れやすいため、世界標準で使用されている成人用(抗原量を調整した)のTdapを輸入して使用しています。安全性は世界中で確立されています。
これを「コクーン(繭)戦略」と呼びます。 赤ちゃんを繭(コクーン)のように周囲の免疫で包み込んで守るという意味です。
理由
家庭内感染の多くは、パパや祖父母、兄姉からの感染です。パパが咳をしていると、赤ちゃんに近づけませんよね? 仕事で忙しいパパこそ、かかると長引いて大変です。出産予定日の2週間前までに接種を済ませておくのがベストです。
使用ワクチン
輸入ワクチン「Tdap」、もしくは国産「トリビック®」
「注射が増えるのはかわいそう」
「自費のワクチンは迷う」
そのお気持ち、よくわかります。しかし、小児科専門医としては、 「予防できる病気で、子どもを苦しませてはいけない」 これに尽きます。
百日咳特有の、顔を真っ赤にして息ができなくなるほどの咳き込みや、集中治療室で人工呼吸器管理を受ける様子は胸が締め付けられます。それがワクチン一本で防げるのであれば、これほど確実なプレゼントはありません。
「武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科」では、ただ注射をするだけでなく、なぜこのワクチンが必要なのか、丁寧に説明することを心がけています。 「国産のトリビック®」と「輸入のTdap」、それぞれの特性を理解し、最適なタイミングで接種できるよう体制を整えています。
Q. うちの子はアレルギー体質ですが、ワクチンを打っても大丈夫ですか?
A. 基本的には問題ありません。
Q. 妊婦への接種は赤ちゃんに影響しませんか?
A. 世界中の多くの国で標準的に行われており、安全性と有効性が確立されています(エビデンスレベルの高い推奨です)。むしろ、打たないことによる百日咳感染のリスクの方が遥かに高いと言えます。
百日咳は「過去の病気」ではなく、今、対策が必要な病気です。
年長さん(就学前)のお子さん
11~12歳のお子さん
もうすぐ赤ちゃんが生まれるご家庭
このいずれかに当てはまる方は、ぜひ一度、母子手帳を確認してみてください。「MRワクチン」や「2種混合」の予診票が届いているなら、それが「百日咳対策(3種混合の追加や変更)」を検討するベストタイミングです。
「うちの子は、どのワクチンを打てばいいの?」 もし迷われたら、ぜひ当院にご相談ください。
大切なご家族を、確かな医療とワクチンの力で一緒に守っていきましょう。
【SNSでも情報発信中!】
当院のSNSでは、小児科・皮膚科に関する役立つ情報や、季節ごとの病気の注意点などを発信しています。ぜひフォローしてください!
Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)
© Morino Kodomo Clinic
