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「昼間はあんなに元気に遊んでいたのに……」
深夜2時、突然お子さんの咳き込む声で目が覚める。 でも、その咳の音がいつもの「コンコン」や「ゴホゴホ」とは明らかに違う。 「ケンケン!」「オォー、オォー」 「バウ、バウ」まるで犬の鳴き声や、オットセイが鳴いているような、太くて響く変な音。
このような苦しそうな光景をみて、びっくりした思いをしたことはありませんか?
その症状、もしかすると「クループ症候群」かもしれません。
今日は、日本専門医機構認定小児科専門医として、クループ症候群の正体とお家でのケア、そして「迷わず救急車を呼ぶべきサイン」について、わかりやすく解説します。

Nano Bananaにて作画
一言で言うと、「空気の通り道の奥の方(声門の下あたり)が腫れて、空気の通り道が狭くなっている状態」です。
想像してみてください。普段は太いストローでスムーズに呼吸をしているのに、ウイルスなどの悪さによってストローが押しつぶされ、細いマドラーのようになってしまった状態を。 空気が通る道(気道)の中でも、特に声帯近辺の「声門下(せいもんか)」という部分が腫れるため、声が枯れたり、あの特徴的な「犬吠様(けんばいよう)咳嗽」と呼ばれる咳が出たりするのです。
原因の多くはウイルスです。 パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、インフルエンザ、そして新型コロナウイルスなどが原因となります。つまり、「特別な病気」ではなく、「いつもの風邪のウイルスが、たまたま喉よりももう少し深くに炎症を起こしてしまった」というケースが多いのです。
「昼間は受診するほどでもないかな、と思っていたのに、夜寝てから急変した」 これはクループの非常に典型的なパターンです。
夜になると、気温が下がり、副交感神経が優位になって気管支が少し狭くなります。さらに、寝ている間に喉の分泌物が溜まったり、部屋の乾燥が進んだりすることで、空気の通り道が限界まで狭くなってしまうのです。
この「夜中に突然」という性質が、親御さんの不安を増幅させますよね。でも、「クループは夜に悪化しやすいものだ」と知っているだけで、心の準備が少し違ってくるはずです。
もし、夜中にお子さんが「ケンケン」し始めたら。 まず一番大切なことは、「親御さんが落ち着くこと」、そして「お子さんをなるべく泣かせないこと」です。
ここが重要です。泣いて興奮すると、呼吸数が増え、狭くなった空気の通り道をさらに自分で締めてしまいます。そこに無理やり空気を通そうとするため、さらに喉が腫れて呼吸が苦しくなるという悪循環(負のスパイラル)に陥ります。 「大丈夫だよ、ママ・パパがいるよ」と優しく抱っこして、安心させてあげてください。縦抱きにしてあげると、呼吸が楽になることが多いです。
そして、「加湿」です。 乾燥はクループの大敵です。加湿器をフル稼働させるのはもちろんですが、即効性がある裏技として「お風呂場作戦」があります。 シャワーで熱いお湯を出して浴室を湯気で充満させ、そこでしばらくお子さんと一緒に過ごしてみてください(やけどには注意!)。湿った温かい空気を吸うことで、喉の腫れが少し和らぐことがあります。 冷たい夜風に少しあたるとスッとして楽になる子もいますが、基本は「保湿・加湿」です。
ここが皆さんが一番知りたいポイントだと思います。
【翌朝の受診で大丈夫な場合】
咳はケンケンしているが、スヤスヤ眠れている
水分が摂れていて、顔色が良い
泣いた時だけケンケン・カンカンしているが、泣き止んで眠れた
【今すぐ夜間救急へ行くべきサイン】
安静にしていても(泣いていないのに)呼吸をするたびに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音がする
陥没呼吸(かんぼつこきゅう)
息を吸う時に、喉仏の下や、肋骨の間がペコペコと凹むような呼吸
横になると苦しがるので、座っていないといられない(起座呼吸)
【ためらわず救急車を呼ぶべきサイン】
唇や爪の色が青紫っぽい(チアノーゼ)。
意識がぼんやりしている、呼びかけへの反応が悪い。
よだれを飲み込めずに垂れ流している
これは「急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん)」という、クループに似ていますが窒息の危険がある非常に怖い病気の可能性があります。
受診された場合、私たちは「ステロイド」というお薬を使うことが多いです。 「ステロイド」と聞くと副作用を心配される親御さんもいらっしゃいますが、クループの治療で使うのはごく短期間(数回程度)です。この場面において、ステロイドは喉の腫れを強力に引かせてくれます。
ボスミンという血管収縮薬の吸入を行うこともあります。当院でも、お子さんの呼吸状態をしっかりと見極め、必要な処置を迅速に行います。
クループ症候群は、繰り返す傾向があります。「風邪をひくたびにケンケンする」というお子さんもいますが、成長とともに気道が太くなれば、自然と起きなくなっていきます。
私たち「武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科」は、地域のかかりつけ医として呼吸を含めた全身状態を丁寧に診察します。 エビデンスに基づいた治療を行うことはもちろんですが、何より「夜中に怖かったね、よく頑張ったね」とお子さんとご家族の心に寄り添う診療を大切にしています。
「この咳、様子を見ていいのかな?」と迷ったら、ぜひ相談にいらしてください。 一緒に、お子さんの健やかな成長を見守っていきましょう。
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Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)
© Morino Kodomo Clinic
