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今回は「川崎病(かわさきびょう)」についてお話しします。
「名前は聞いたことがあるけれど、具体的にどんな病気なの?」
「熱がなかなか下がらないけど、もしかして……」
そんな不安を少しでも解消できるよう、エビデンス(医学的根拠)に基づきつつ解説していきます。
お子さんが熱を出して、3日、4日と下がらないとき。解熱剤を使ってもまたすぐに上がってしまうとき。親御さんとしては「ただの風邪じゃないんじゃないか?」と、心配になると思います。
発熱が長引くときに私たち小児科医が必ず頭に浮かべる病気の一つが「川崎病」です。
川崎病は、主に4歳以下の小さなお子さん(特に1歳前後)に多く見られる病気です。 一言でいうと、「全身の血管(中小動脈)に炎症が起きてしまう病気」です。
診療室でよく聞かれるのが次の2点です。
「川崎市で発見された病気なんですか?」
いいえ、違います。1967年にこの病気を発見された川崎富作先生のお名前からつけられました。実は日本人をはじめとしたアジア人に多い病気ですが、今では世界中で “Kawasaki Disease” として知られています。
「他の子にうつりますか?」
うつりません。 インフルエンザやコロナのように、ウイルスや細菌が直接人から人へ感染するものではありません。ただ、何らかの感染症が引き金になっている可能性はあると考えられていますが、詳しい原因はまだ完全には解明されていない病気でもあります。
川崎病には「診断の手引き」というものがあり、以下の6つの症状のうち、5つ以上が当てはまると川崎病と診断されます。(※ただし、4つ以下でも川崎病と診断する「不全型」もあります)
お子さんの様子を見て、いくつ当てはまるかチェックしてみてください。
高熱(通常4日以上つづきます)
両目の充血
目やには出ず、白目の部分がウサギのように赤くなります。
唇が赤くなり、舌がイチゴのようになる
唇が乾燥して赤く切れたり、舌の表面がブツブツして赤くなる「イチゴ舌」が見られます。
体に大小さまざまな発疹が出る
お腹や背中などに赤い発疹が出ます。
【ここがポイント!】 BCG(はんこ注射)の跡が赤く腫れ上がるのが非常に特徴的です。特に小さいお子さんの場合、ここを見て疑うことも多いです。
手足が硬く腫れる(回復期には皮がむける)
手のひらや足の裏がパンパンに赤く腫れます。熱が下がった頃に、指先から皮がボロボロとむけてくることがあります。
首のリンパ節が腫れる
院長からのアドバイス 「熱が続いていて、目が赤いな」「BCGの跡が腫れている気がする」と思ったら、迷わず受診してください。「様子を見よう」と待ちすぎないことが大切です。
「熱が下がれば治るんじゃないの?」と思われるかもしれません。 しかし、川崎病の一番怖いところは、「心臓の合併症(後遺症)」です。
全身の血管の炎症が、心臓に酸素や栄養を送る大切な血管「冠動脈(かんどうみゃく)」に及ぶと、血管の壁が弱くなり、こぶのように膨らんでしまうことがあります。これを「冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう)」と言います。
もし瘤(こぶ)ができてしまうと、将来的に血管が詰まりやすくなり、心筋梗塞などを起こすリスクになってしまいます。 「こぶができるのを防ぎ心臓を守るため」に、適切な時期に適切な治療をスタートさせる必要があるのです。そのため、川崎病と診断されたら原則として入院治療となります。
入院期間は順調にいけば1週間〜2週間程度です。主に以下の2つの治療を行います。
これが治療の要(かなめ)です。 献血から作られた「免疫グロブリン」というお薬を点滴で体に入れます。暴走している免疫システムを落ち着かせ、血管の炎症を鎮める効果があります。 この治療のおかげで、心臓に後遺症が残る確率は劇的に減りました。
炎症を抑えたり、血液をサラサラにして血栓(血の塊)ができるのを防ぐ飲み薬です。 最初は多めに飲み、熱が下がってからも血管の状態が落ち着くまでしばらく(数ヶ月程度)飲み続けます。
※症状が重い場合や、最初の治療で熱が下がらない場合は、ステロイド薬などを追加することもあります。
退院後の生活で気をつけてほしいポイントをQ&A形式でまとめました。
A. 心臓に後遺症(冠動脈瘤)がなければ、通常の生活や運動制限はありません。外遊びもOKです。ただし、瘤が残ってしまった場合は、運動の制限が必要になることがあります。これは主治医とよく相談しましょう。
A. ここは非常に重要です! 治療に使った「免疫グロブリン」の影響で、生ワクチン(麻疹風疹(MR)、水痘、おたふくかぜ、BCGなど)の効果が出にくくなってしまいます。 そのため、免疫グロブリン治療を受けてから「6ヶ月以上(免疫グロブリン大量療法を2回行った場合は9カ月以上)」空けてから接種する必要があります。
※不活化ワクチン(インフルエンザ、日本脳炎、ヒブ、肺炎球菌など)は、退院後体調が良ければすぐに打っても大丈夫です。
A. はい、しばらく続きます。 退院後も、心臓の血管に変化が起きていないかを確認するため、定期的に心臓超音波検査(心エコー)を行います。 エコー検査は痛みもなく、被曝の心配もありません。当院では退院後の長期的なフォローアップもしっかり行っており、お子さんが動画を見ている間に終わることも多いです。

Geminiで作画
最近の検索トレンドや親御さんの関心事として外せないのが、新型コロナウイルスとの関連です。 コロナ流行後、欧米を中心に「小児多系統炎症性症候群(MIS-C)」という、川崎病に非常によく似た病態が報告されました。
似ている点
高熱、発疹、目の充血、心臓への影響
違う点
MIS-Cは年長児〜10代に多く、腹痛や下痢などの消化器症状が強い、心機能が低下しやすい
日本では欧米ほど多くはありませんが、ゼロではありません。「コロナにかかった後(または濃厚接触後)に高熱と発疹が出た」という場合は、必ず医師にその旨を伝えてください。
お子さんが「川崎病かもしれない」と言われたら、動揺してしまうと思います。入院が必要と言われれば、付き添いの負担や兄弟の預け先など、ご家族にもご負担がかかると思います。
川崎病は、日本の小児科医が世界で最も診断・治療に長けている病気の一つです。適切な時期に治療を開始すれば、ほとんどのお子さんが元気に回復し、後遺症なく成長していきます。
診療している症状・疾患
心雑音、胸痛、動悸、失神、先天性心疾患のうち手術適応が無いもの(穴が小さな心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、軽度の肺動脈狭窄症など)、不整脈、川崎病長期フォローアップ
検査
心電図
心臓超音波検査
胸部単純レントゲン写真(連携施設で撮影)
【SNSでも情報発信中!】
当院のSNSでは、小児科・皮膚科に関する役立つ情報や、季節ごとの病気の注意点などを発信しています。ぜひフォローしてください!
Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)
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