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我々は日々の診療を通して、「未来を担うこどもの健やかな成長と幸せ」を何よりも願っています。しかし、その幸せな日常の中には、思わぬ危険が潜んでいることも事実です。特に、ご家庭で毎日使う歯ブラシやお箸が、一瞬にして「凶器」に変わってしまう恐ろしい事故があるのをご存知でしょうか?
それは、こどもがこれらを口にくわえたまま転倒し、のどや口の奥、あるいは顔面を深く傷つけてしまう「刺し傷事故」です。一見、些細なことのように思えるこの行動が、実は命に関わる重篤な事態を引き起こす可能性があるのです。
この「歯ブラシ・お箸の刺し傷事故」のリアルな危険性と、私たち大人がすぐに実践できる効果的な予防策について、日本小児科学会認定小児科専門医としてのエビデンスに基づきながら、優しく、そして具体的に解説していきます。
東京都こどもセーフティプロジェクトHPから引用
この種の事故は、主に1歳半から3歳頃の、ちょうど活発に動き回るようになったこどもたちに多く見られます。この時期のこどもは、運動能力が著しく発達する一方で、危険予測能力やバランス感覚は未熟です。
「やってみたい!」 ⇒ 自分で歯磨きをしたがる、食事中にお箸を持ったまま遊びたくなる、といった旺盛な好奇心が行動の原動力となります。
「まだ未熟」 ⇒ 口にくわえたものが邪魔になるという感覚や、転んだときに手がつけないといった危機回避能力がまだ育っていません。
この「活動性の向上」と「危険察知能力の未熟さ」のアンバランスさが、事故の温床となるのです。
多くの場合、歯ブラシやお箸は、転倒した際の勢いでのどの奥(咽頭や扁桃の周り)に突き刺さります。実は、こののどの奥には、私たちが想像する以上に重要な器官が密集しています。
まさに、「ちょっとした不注意」が、「一生の後遺症」につながりかねない、非常に深刻な事故なのです。
「わが子がそんな目に遭うなんて」と思われるかもしれませんが、事故は予測不能な一瞬に起こります。だからこそ、日頃からの予防策の徹底が何よりも大切です。
最もシンプルで、最も効果的な対策です。
<ルール化>
「歯ブラシはお風呂や洗面所の椅子に座って使う」
「お箸は食事の椅子に座ってから持つ」
など、ご家庭のルールとして徹底してください。
具体例
「歯磨きが終わったら、動く前に(動くという句構造の前に)ママに渡そうね」と具体的に声かけをしましょう。
収納
歯ブラシは、こどもが自分で手の届く場所にあっても、使用時以外は手の届かない高い場所に置くなど、物理的に「ながら歩き」の機会を減らす工夫をしてください。
最近では、万が一の転倒事故を考慮し、安全性を高めた歯ブラシも販売されています。
ただし、安全設計の歯ブラシでも事故は起こりえます。「安全だから大丈夫」と過信せず、必ず監視下で使用させることが大前提です。
こどもが歯磨きやお食事をしている間、ついスマホを触ったり、家事に集中したりしていませんか?
万が一事故が起こってしまった場合、間違った対応がさらなる重症化を招くことがあります。冷静に、以下の手順で行動してください。
刺さった歯ブラシやお箸を絶対に自分で抜こうとしないでください。これが最も重要なポイントです。
出血の有無に関わらず、すぐに119番通報し、救急車を呼んでください。
こどもをなるべく動かさず、落ち着かせて安静に保ちましょう。特に頭や首を動かすと、刺さっている部分が周囲の組織をさらに傷つけることになります。
「歯ブラシ・お箸の刺し傷事故」は、ちょっとした油断から生じる、予防可能な事故です。「大丈夫だろう」という気の緩みが、取り返しのつかない事態を招くかもしれません。今日から、ご家庭で「くわえて歩かない」ルールを徹底し、安全な歯ブラシを選び、そして優しく見守る時間を大切にしてください。
未来を担うこどもたちの笑顔を守るために、一緒に予防対策をしていきましょう。
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当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)