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クリニックの診察室で、こんなお話をよく耳にします。
「熱は下がったのに、咳だけがずっと残っていて…」
「夜中になると特に咳がひどくて、親子で寝不足なんです」
季節の変わり目や、集団生活が始まると、こどもは本当によく咳をします。そのほとんどは、いわゆる「風邪」と呼ばれるウイルス感染症なのですが、中には「ちょっとしつこいな」「普通の風邪とは様子が違うな」と感じる咳もあります。
そんな「しつこい咳」の原因として、私たちが常に念頭に置いている感染症の一つが、今回テーマにする「マイコプラズマ感染症」です。
名前は聞いたことがあるけれど、一体どんな病気なの?RSウイルスやアデノウイルスとは何が違うの?そんな親御さんの疑問に、日本専門医機構認定小児科専門医として、分かりやすく、そして詳しくお答えしていきたいと思います。少し長いですが、お子さんの健康を守る大切な情報ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
まず、「マイコプラズマ」という病原体そのものについて、少しだけお話しさせてください。 「え、いきなり難しい話?」と思われたかもしれませんね。大丈夫です、簡単に説明します。
病原体には、大きく分けて「ウイルス」と「細菌」がいます。 インフルエンザやコロナは「ウイルス」、溶連菌やとびひの原因は「細菌」です。
では、マイコプラズマはどちらでしょう? 実は、マイコプラズマは「細菌」の一種なのですが、ちょっと変わった特徴を持っています。普通の細菌は、自分を守るための硬い「細胞壁」という鎧(よろい)を持っているのですが、マイコプラズマはこの細胞壁を持っていません。ふにゃふにゃとした、とても小さな微生物なんです。
この「細胞壁がない」という特徴が、マイコプラズマ感染症の診断や治療を少しだけ厄介にしているポイントでもあります。この話は後ほどお薬のところで詳しく触れますね。
マイコプラズマは、主に気道(のどや気管支、肺)に感染します。感染してから症状が出るまでの潜伏期間が2~3週間と非常に長いのが特徴です。ご家族や学校で感染者が出ても、すぐには症状が出ないので、「どこでもらったんだろう?」と不思議に思うことも少なくありません。
主な症状は以下の通りです。
年齢による症状の違いも知っておくと良いでしょう。
「うちの子、マイコプラズマかも?」と思ったら、ぜひ小児科を受診してください。自己判断は禁物です。 クリニックでは、症状や周りの流行状況を詳しくお聞きした上で、必要に応じて検査を行います。
当クリニックでは、これらの検査のメリット・デメリットを丁寧にご説明し、お子さんの状態に合わせて最適な診断方法を選択しています。
ここが非常に重要なポイントです。
1. 基本となる「抗菌薬(抗生剤)」
先ほど、マイコプラズマは「細胞壁がない」ふにゃふにゃの細菌だとお話ししましたね。 実は、一般的な細菌感染症(例えば溶連菌など)で処方されるペニシリン系の抗生剤は、細菌の「細胞壁」を壊すことで効果を発揮します。 ということは…? そう、もともと細胞壁のないマイコプラズマには、これらの抗生剤は全く効かないのです。
そのため、マイコプラズマ感染症には、マクロライド系と呼ばれる種類の抗菌薬(抗生剤)を使います。
しかし、近年、このマクロライド系抗菌薬が効かない「耐性菌」が非常に増えていることが、日本の小児科では大きな問題となっています。せっかくお薬を飲んでも、咳や熱が一向に良くならないケースがあるのです。
その場合は、マクロライド系とは別の系統の抗菌薬(テトラサイクリン系やニューキノロン系など)への変更を検討します。ただし、これらの抗菌薬は副作用の観点から、小さいお子さんへの投与は慎重に判断する必要があります。だからこそ、専門医による的確な診断と治療方針の決定が非常に重要になるのです。
2. 重症な場合に検討する「ステロイド」
適切な抗菌薬を使っても、なかなか熱が下がらなかったり、呼吸が苦しそうな状態が続いたり、肺炎が悪化したりすることがあります。 これは、マイコプラズマという病原体そのものだけでなく、感染によって引き起こされた「体の過剰な免疫反応・炎症反応」が、かえって自分の肺を傷つけてしまっている状態です。
このような重症例に対しては、「日本小児呼吸器学会」などのガイドラインでも示されている通り、ステロイド薬の使用を検討します。 ステロイドには、この「行き過ぎた炎症」を強力に抑え込む作用があります。 「ステロイド」と聞くと、副作用を心配される親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、重症な肺炎の治療においては、お子さんの体を守るために非常に有効な選択肢となります。
お薬での治療と合わせて、お家でのケアもとても大切です。
登園・登校の目安についてですが、インフルエンザのように「解熱後〇日」といった明確な出席停止期間はありません。 基本的には、「熱が下がり、激しい咳が落ち着いて、お子さん自身が元気に過ごせるようになったら」が目安となります。ただ、咳はしばらく続くことが多いので、マスクを着用するなどの咳エチケットを心がけましょう。
マイコプラズマ感染症は、4年周期でオリンピックの年に流行しやすいことから「オリンピック病」などと呼ばれることもありましたが、近年はその周期性も崩れ、一年を通して見られる感染症となっています。
今回の話をまとめますと、
もし、これらのサインにお心当たりがあれば、それはお子さんからの「ただの風邪じゃないかもしれないよ」という大切なメッセージです。
私たち、「武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科」のスタッフ一同は、エビデンスに基づいた確かな医療を提供することはもちろん、親御さんの不安な気持ちに優しく寄り添うことを何よりも大切にしています。些細なことでも「これって大丈夫かな?」と思ったら、ご相談ください。
お子さんの健やかな成長とご家族の幸せな毎日を、私たちはこれからも全力でサポートしていきます。
<参考>
・厚生労働省HP「マイコプラズマ肺炎」
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当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)