今日は「おしゃぶり」について、親御さんからよくいただくご相談にお答えしたいと思います。
「おしゃぶりって、使っても大丈夫ですか?」
「いつまで使っていいの?」
育児書やインターネットで色々な情報があふれていて、迷ってしまいますよね。私も小児科医として、エビデンスに基づきつつ、それぞれの親子に寄り添ったアドバイスを心がけています。
結論からお伝えすると、おしゃぶりは、メリットもデメリットもある育児ツールです。大切なのは、メリットとデメリットを正しく理解して、上手に活用することです。

おしゃぶりの3つのメリット
おしゃぶりの一番のメリットは、なんといっても赤ちゃんを落ち着かせる効果があることでしょう。これには科学的な根拠もあります。
- 赤ちゃんの「安心」につながる
赤ちゃんは、生理的または心理的な欲求を満たすために吸啜(きゅうてつ)行動をします 。おしゃぶりを吸うというコントロールされた行動は、赤ちゃんに安心感を与え、自分で気持ちを落ち着かせる助けになります 。
- SIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクを低減する
これは非常に重要なポイントです。アメリカ小児歯科学会(AAPD)の指針にもあるように、赤ちゃんが眠りにつくときに、おしゃぶりをくわえさせることは、SIDSの発症率を低くする保護的な効果があると考えられています 。ただし、嫌がる赤ちゃんに無理やり使用する必要はありません 。
- 指しゃぶりを予防する可能性がある
長期間にわたる指しゃぶりは、歯並びに影響を与えるリスクがあります。おしゃぶりは、指しゃぶりの代わりとして、指を吸う癖がつくのを防ぐのに役立つことがあります 。ある研究では、生後4か月より前におしゃぶりを始めた子どもは、それ以降に始めた子どもに比べて、指しゃぶりをする癖がつきにくいという結果が出ています 。
注意すべき3つのデメリットと対策
もちろん、おしゃぶりにはデメリットもあります。特に長期にわたる使用は注意が必要です。
- 中耳炎のリスクを高める
おしゃぶりを使うと、1歳以降では中耳炎にかかるリスクが高まるという報告があります 。
- 噛み合わせ(咬合)への影響
これが最も心配される点かもしれません。日本小児歯科学会と日本小児科連絡協議会による「おしゃぶりについての考え方」でも指摘されていますが、おしゃぶりの長期的な使用は、開咬(かいこう:上下の前歯が噛み合わず隙間ができる)や上顎前突(出っ歯)、後方交叉咬合(こうほうこうさこうごう:奥歯の噛み合わせが横にずれる)のリスクを高めることがわかっています 。
これらの噛み合わせの異常は、アメリカ小児歯科学会の指針では1歳半、日本小児科学会・日本小児歯科学会の考え方ではおそくとも2歳半頃までに使用を中止すれば、成長とともに自然に改善されることが多いです 。一方、3歳を過ぎても使用し続けると、噛み合わせの異常が残りやすくなります 。ですから、1歳半から3歳頃までにはおしゃぶりを卒業することが望ましいとされています 。
- ことばの発達やふれあいの機会が減る可能性
おしゃぶりを長時間くわえていると、発語の機会が減ったり、親子の会話やふれあいが少なくなることが懸念されます 。また、生後5~6か月頃の赤ちゃんは、様々なものを口に入れて、形や感触を学ぶ時期でもあります 。おしゃぶりを使いすぎると、こうした学びの機会が奪われる可能性があります 。ですから、おしゃぶりはあくまで補助的なツールとして考え、親子のコミュニケーションや遊びの時間を大切にしてくださいね。
おしゃぶりを安全に使うための3つのポイント
最後に、おしゃぶりを使う上で知っておきたい安全な使い方をまとめます。
- 安全基準を満たした製品を選ぶ
部品が外れてしまうような製品だと、窒息の原因になることがあります。安全性を考慮すると、一つの部品でできているものが壊れにくく窒息のリスクも低いとされています 。
- はちみつは絶対にNG!
これは非常に重要です。1歳未満の赤ちゃんには、はちみつを与えてはいけません 。はちみつには、乳児ボツリヌス症の原因菌であるボツリヌス菌の胞子が含まれていることがあり、命に関わることもあります 。おしゃぶりにハチミツをつけたりするのは絶対にやめましょう。
- 定期的なお手入れと点検 お
おしゃぶりは微生物の温床になることがあります 。定期的に熱湯消毒などをして清潔に保つことが大切です 。また、破損や劣化がないか、ひび割れやベタつきがないかなど、こまめに点検してください 。
まとめ
おしゃぶりは、赤ちゃんを落ち着かせ、SIDSのリスクを減らすなど、多くのメリットがある一方で、長期使用による歯並びへの影響や中耳炎のリスクなど、注意すべき点もあります。
「泣き止まない時」や「眠りにつく時」など、必要な時に限定して使用し、おそくとも2歳半までには卒業を目指すのが良いでしょう。また、おしゃぶりに頼りすぎず、スキンシップやことばかけを十分に行うことが、お子さんの健やかな成長につながります。
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<参考>
・日本小児歯科学会と日本小児科連絡協議会による「おしゃぶりについての考え方」
・アメリカ小児歯科学会(AAPD)の指針

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川崎市中原区
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武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
院長 大熊 喜彰