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最近、電車の中や自宅でイヤホンをつけて動画や音楽を楽しむこどもが増えています。音楽フェスやライブに親子で参加するご家庭も多くなりました。
WHO(世界保健機構)は、12歳から35歳までの若者を中心に、11億人がイヤホン難聴のリスクにさらされていると警告しています。特に、大音量かつ長時間のイヤホン使用が、難聴のリスクを高める原因となっています。
今回は、小児科専門医の立場から、「こどものイヤホン使用や大きな音が出るライブなどによる難聴のリスクと対処法」について、具体的に解説していきます。
耳の不調といえば年配の方がなるもの…というイメージがありますが、実はこどもにも起こり得る難聴があります。それが「環境性難聴(音響性難聴)」です。
これは、長時間大きな音にさらされることで、耳の奥の聴こえる細胞(有毛細胞)が傷つき、聴力が低下してしまう状態のこと。
特に以下のような状況は要注意です。
音量を上げたまま長時間イヤホンを使っている
音楽ライブや花火大会などで、耳元に爆音が響いていた
ゲームやYouTubeなどをスピーカーで大音量にして見ている
こういった「日常のちょっとした音の環境」が、実はこどもの耳にとっては大きな負担になっていることがあります。
こどもの聴力はとても繊細で、大人と同じ音でもダメージを受けやすいことをご存じでしょうか?
まず、音の大きさを表す単位「デシベル(dB)」についてお話しします。
ささやき声は約30dB
通常の会話は約60dB
これらは耳にとって安全なレベルの大きさです。
しかし、音楽フェスティバルなどの大きな音が出る場所では、音の大きさが95〜115dBにもなります。
屋外でのフェスの場合でも、屋内に比べて音の反響が少ないため安全に感じるかもしれませんが、音量自体は耳に負担がかかる非常に大きな音です。
10歳の男の子。毎日学校から帰ると、自分のタブレットでイヤホンをつけてYouTubeを2~3時間視聴していました。
ある日、「最近、テレビの音が小さい」「先生の声が聞こえにくい」と言い出し、耳鼻科を受診。軽度の感音難聴と診断されました。
このように、自覚症状が出るころには、すでに聴力の一部が損なわれているケースも少なくありません。
こども自身が耳の異常に気づかないことも多いため、保護者が変化に気づくことが大切です。
以下のような様子が見られたら、一度耳鼻科で相談してみましょう。
テレビや音楽の音量を以前より大きくしている
呼びかけに気づかないことがある
話しかけると「え?」と聞き返すことが増えた
集中力や学習面での低下が見られる
耳を守るためには、日々の生活の中でのちょっとした工夫がポイントになります。
WHOでは、「音量は最大の60%まで、使用は1日60分以内」を目安にすることを推奨しています。「音が漏れていないか」を親がたまに確認してあげるのも有効です。
WHOが推奨する安全な音量と使用時間は、80dB(走行中の電車内くらいの音量)で、週に40時間以内(1日約5.7時間)です。85dB以上はリスクが高く、98dBでは週に75分以上さらされると、耳を傷める可能性があります。
年齢によりますが、耳栓やノイズキャンセリングイヤーマフは過度な音から耳を守ってくれます。特にライブ会場など、100dB(ジェット機の騒音レベル)を超える環境では安心です。
一日中音に囲まれていると、耳が休まる時間がありません。
学校や外出から帰った後、30分〜1時間は「静かな時間」を作って、耳をリセットしてあげましょう。
環境性難聴の多くは一度ダメージを受けた細胞は回復しにくいとされています。
そのため、「早めに気づくこと」「予防すること」がなによりも大切です。
ただし、軽度であれば進行を止める・これ以上の悪化を防ぐことは可能ですので、気になる場合は早めの受診をおすすめします。
耳は一度ダメージを受けると、もとに戻らないこともあります。
だからこそ、「大丈夫かな?」と感じたときには早めの対応を心がけましょう。
親子で音楽や動画を楽しむことは素晴らしい時間ですが、ちょっとした工夫や知識で、お子さんの耳の健康を守ることができます。
気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)