学校に入学すると健康診断がありますね。その中でも、特に「学校心臓検診」という言葉に、ちょっと身構えてしまう親御さんもいらっしゃるかもしれませんね。「うちの子、大丈夫かしら?」と心配になるお気持ちがあるかもしれません。
私の心臓外来には、年間を通して学校心臓検診で「異常を指摘された」とクリニックを受診されるお子さんと親御さんにたくさんお会いしています。
そこで今回は、親御さんの不安を少しでも和らげられるよう、「学校心臓検診って何のためにあるの?」「もし異常を指摘されたらどうすればいいの?」といった疑問に、分かりやすく、そして具体的にご説明していきたいと思います。
そもそも、学校心臓検診って何のためにあるの?〜「早期発見・早期治療」で未来を守る大切な検査〜
「学校心臓検診」と聞くと、なんだか大げさに聞こえるかもしれませんが、実はとっても大切な検診なんです。その目的は、ズバリ「学校生活の中で、心臓に負担がかかるような活動(体育や部活動など)を安全に行えるか、あるいは何か心臓の病気が隠れていないか」を早期に発見することにあります。
文部科学省の指導のもと、全国の小・中・高校で行われています。多くの場合、小学校1年生、中学校1年生、高校1年生といったように、特定の学年で実施されることが多いですね。
心臓の病気の中には、子どもの頃には症状がほとんど出なくても、運動などをきっかけに急に問題が表面化したり、将来的に大きな病気に発展したりするものもあります。学校心臓検診は、そんな「隠れた病気の芽」を早期に見つけ出し、必要な治療や適切な生活指導を行うことで、お子さんの健やかな成長と安全な学校生活をサポートするための、まさに「命を守るスクリーニング検査」なのです。
学校心臓検診って、具体的に何をするの?〜聴診と心電図、それぞれの役割〜
学校心臓検診で行われる主な検査は、以下の2つです。
- 心臓の聴診(問診含む):
- これは、お医者さんが聴診器を使って、お子さんの胸の音を聴く検査です。心臓の音に雑音がないか、リズムはどうかなどを確認します。
- 学校によっては、事前に問診票を記入し、運動時の症状(胸が痛い、息が苦しい、めまいがする、意識を失ったことがあるなど)がないかを確認することもあります。これらの情報は、聴診と合わせて、心臓の状態を把握するための大切な手がかりになります。
- 「心雑音」と聞くと、ドキッとする親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。お子さんの心雑音の多くは、病的なものではない「生理的な心雑音(機能性心雑音)」と呼ばれるものです。これは、体が成長する過程で一時的に聞こえるもので、何の心配もいらないことがほとんどです。しかし、中には心臓の病気が原因で聞こえる「病的雑音」もありますので、聴診は重要なスクリーニング検査なのです。
- 心電図検査:
- お子さんの手足と胸に電極を貼り付け、心臓が動くときに発生する微弱な電気信号を記録する検査です。痛みは全くありません。
- この検査で、心臓のリズムが乱れていないか(不整脈)、心臓の筋肉に負担がかかっていないか、生まれつきの心臓の形に異常がないか、といったことが分かります。
- 大人向けの心電図検査とほとんど同じですが、子ども特有の波形や、成長に伴う変化があるため、小児の心電図に詳しい医師が判断することが重要です。
これらの検査結果を総合的に判断し、もし「精密検査が必要」と判断された場合に、学校から連絡が来ることになります。
【最も気になる】もし「異常あり」と指摘されたら?〜落ち着いて、次のステップへ〜
学校から「心臓検診で異常が指摘されたので、医療機関を受診してください」という連絡が来たら、多くの親御さんは「もしかして、うちの子、心臓病なの!?」と不安に駆られてしまうことでしょう。ご心配になるお気持ちは痛いほどよく分かります。
しかし、ここで大切なのは、「落ち着いて、指示された医療機関を受診する」ことです。
学校心臓検診は、あくまで「スクリーニング検査」であり、「精密検査が必要」=「心臓病」というわけではありません。むしろ、多くのお子さんは、精密検査の結果、「異常なし」と診断されたり、経過観察で問題ないという結論に至ることが多いのです。
では、具体的にどうすればいいのでしょうか?
- まずはかかりつけの小児科医へご相談を:
- 学校から受け取った用紙(精密検査の指示書など)を持って、まずは普段からお子さんのことをよく知っているかかりつけの小児科医を受診しましょう。
- かかりつけ医は、お子さんのこれまでの病歴や体質などを把握していますので、学校心臓検診の結果と照らし合わせて、専門医への紹介の必要性を判断してくれます。
- 当院のようにかかりつけ医に心臓外来があれば、そのままクリニックで精密検査が受けられることもあります。
- 小児循環器専門医のいる医療機関を受診:
- かかりつけ医から紹介された場合、あるいは直接、小児循環器専門医のいる病院(多くの場合、紹介状が必要)やクリニックを受診することになります。
- 受診する際は、必ず学校から渡された「心臓検診の結果通知書」や「精密検査指示書」など、すべての書類を持参してください。これまでの検査結果が書かれている大切な書類です。
精密検査ではどんなことをするの?〜さらに詳しく心臓をチェック!〜
精密検査では、通常、以下のような検査が行われます。
- 詳細な問診と身体診察:
- より詳しく、お子さんのこれまでの健康状態や症状、ご家族の病歴などを伺います。
- 改めて、聴診を行い、心臓や肺の状態を丁寧に診察します。
- 心電図検査:
- 学校で行った心電図よりも、さらに詳細な心電図を取ることがあります。
- 胸部X線検査(レントゲン):
- 心臓の大きさや形、肺への血流の状態などを確認します。
- 心臓超音波検査(心エコー):
- これが最も重要な検査の一つです!お子さんの胸にゼリーを塗り、超音波の機械を当てることで、心臓の内部の構造や動き、血液の流れなどをリアルタイムで観察することができます。痛みは全くなく、お子さんが寝ていても検査が可能です。生まれつきの心臓の形や、弁の動き、心臓のポンプ機能などを詳しく調べることができます。
- ホルター心電図(24時間心電図):
- 不整脈の疑いがある場合などに行われることがあります。小さな機械を体に装着し、日常生活を送りながら24時間心電図を記録する検査です。家で過ごしたり、学校に行ったりする普段の生活の中で、心臓のリズムに異常がないかを調べます。
これらの精密検査の結果、最終的な診断が下されます。
診断結果は大きく分けて3つ!〜ほとんどが心配ないケースです〜
精密検査の結果は、大きく分けて以下の3つのパターンに分かれます。
- 「異常なし(要精査→異常なし)」:
- これが最も多いパターンです。学校心臓検診では異常が指摘されたものの、精密検査の結果、心臓には全く問題がないことが判明するケースです。生理的な心雑音であったり、心電図のごく軽微な変化であったりすることがほとんどです。
- この場合、通常は特に治療の必要はなく、今後の学校生活や運動も制限なく行うことができます。
- 「経過観察」:
- すぐに治療が必要な病気ではないけれど、注意深く見守っていく必要があるケースです。例えば、心臓にわずかな変化が見られるけれど、現時点では生活に支障がない場合などです。
- 定期的に小児循環器専門医の診察を受け、必要に応じて再度検査を行い、状態の変化を確認していきます。もちろん、多くのお子さんは成長とともに問題が解消されたり、悪化することなく過ごせます。
- 「治療が必要な病気が発見された」:
- ごく稀にですが、心臓に何らかの病気(先天性心疾患、不整脈、心筋症など)が見つかることもあります。
- この場合、病気の種類や重症度に応じて、薬による治療、生活指導、場合によっては手術など、適切な治療方針が立てられます。
- しかし、早期に発見できたことで、適切な治療を開始し、その後の健康な生活へと繋げることができます。精密検査の意義はここにあります。
親御さんへのメッセージ〜「正しい知識」と「専門家との連携」が大切〜
学校心臓検診で「異常あり」と指摘された時、親御さんが不安になるのは当然のことです。しかし、今日お話したように、その多くは心配のないケースであることが多いです。
大切なのは、慌てずに、まずはかかりつけの小児科医にご相談いただくか、直接小児循環器専門医のいるクリニックや病院(紹介状が必要な場合が多い)を受診することです。そして、医師から十分な説明を受け、お子さんの心臓の状態を正しく理解することです。
もし、精密検査で何らかの異常が見つかったとしても、当院ではお子さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療や生活指導を提案し、お子さんの健やかな成長を全力でサポートしていきます。
「武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科」では、お子さんの心臓に関するご相談を幅広くお受けしています。学校心臓検診で異常を指摘された方はもちろん、お子さんの心臓について少しでも気になることがあれば、どうぞお気軽にまずはお電話(044-739-0888)でご相談ください。
「家族とともに未来を担うこども達の健やかな成長と幸せを目指します」という理念のもと、エビデンスに基づいた分かりやすい説明と、お子さん、そして親御さんの心に寄り添った診療を心がけています。
<参照>
日本循環器学会・日本小児循環器学会「学校心臓検診のガイドライン」

当院の外観写真
川崎市中原区
アクセス:武蔵小杉、新丸子、元住吉、武蔵中原、日吉
武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
院長 大熊 喜彰