今回は、子育て中のパパさんママさんを悩ませる「赤ちゃんの嘔吐」について、お話したいと思います。
「うちの子、よく吐くんです」
「吐いた後、ケロッとしてるけど大丈夫?」
といったご相談は、毎日のように耳にします。
実は、赤ちゃんの嘔吐には「大丈夫なもの」と「すぐに病院を受診した方がいいもの」があります。
今回は、それぞれの見分け方や、ご家庭での対処法、そして知っておくべき病気について、エビデンスに基づきながらも、分かりやすくお伝えしていきます。

そもそも、なぜ赤ちゃんはよく吐くの?
私たち大人は、食べたものを「吐く」となると、何か病気にかかったんじゃないかと心配になりますよね。
でも、赤ちゃんがよく吐くのは、実は体の構造上の理由が大きいんです。
- 胃の形がとっくりのよう
大人の胃は、ある程度膨らみがあって、入り口もキュッと締まっています。しかし、赤ちゃんの胃は、入り口がゆるく、縦長のとっくりのような形をしています。
- 胃と食道のつなぎ目が未熟
胃の入り口(噴門)を締める筋肉がまだ未熟なので、食べたものが逆流しやすいのです。
- 横になっている時間が長い
特に新生児や乳児は、ほとんどの時間を横になって過ごします。そのため、食べたものが逆流しやすくなります。
これらの理由から、赤ちゃんは大人に比べて頻繁にミルクや母乳を吐き戻してしまいます。これは生理的な現象なので、過度に心配する必要はありません。
嘔吐の「大丈夫」と「要注意」を見分けるポイント
では、どのような嘔吐なら「大丈夫」で、どのような嘔吐なら「注意」が必要なのでしょうか?
ポイントは、嘔吐の仕方、嘔吐物の様子、そして赤ちゃんの様子です。
大丈夫な嘔吐(吐き戻し)
赤ちゃんが「吐き戻し」をするのは、生理的な現象なので、基本的には心配いりません。
- 吐き方:
- ダーッと勢いよくではなく、口の端からタラタラとこぼれるように吐く。
- ゲップと一緒に少量吐き出す。
- 吐いた後も機嫌が良く、ケロッとしている。
- 嘔吐物の様子:
- ミルクや母乳そのまま、あるいは胃液と混ざった白い液体。
- 色がいつもと変わらない。
- 赤ちゃんの様子:
- 元気があり、顔色も良い。
- 機嫌が良く、遊びたがる。
- おしっこやうんちの量もいつも通り。
このような場合は、少し様子を見てあげてください。慌てて水分を飲ませようとすると、また吐いてしまうことがあります。少し時間を置いてから、少量ずつ与えるようにしましょう。
要注意な嘔吐
一方で、以下のような症状が見られる場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 吐き方:
- 噴水のように勢いよく吐く
ミルクが口から噴水のように勢いよく飛び出す場合、**「肥厚性幽門狭窄症」**という病気の可能性が考えられます。
- 何度も繰り返し吐く
吐いた後もぐったりしていて、何度も吐く場合は、脱水の危険性があります。
- 嘔吐物の様子:
- 黄色や緑色の液体
これは胃液ではなく、腸液が逆流している可能性があります。**「腸閉塞」や「腸重積」**など、緊急性の高い病気のサインかもしれません。
- 茶色やコーヒーのような色、血が混じっている
食道や胃からの出血が疑われます。
- 赤ちゃんの様子:
- ぐったりしている、元気がない
意識がもうろうとしていたり、呼びかけに反応が鈍い場合は危険です。
- 顔色が悪い、唇が紫色
チアノーゼの兆候です。
- おしっこが出ない
脱水が進んでいる可能性があります。半日以上おしっこが出ない場合は要注意です。
- お腹を痛がる、泣き止まない
激しい腹痛を伴う場合は、腸重積や急性胃腸炎の可能性が考えられます。特に腸重積では、間欠的な腹痛(痛くて泣く→ケロッとする→また泣くを繰り返す)が特徴的です。
- 高熱がある
嘔吐と高熱を伴う場合は、感染症の可能性が高いです。
家庭でできる対処法と注意点
嘔吐は、脱水が一番の心配事です。嘔吐が続くときは、脱水にならないように水分補給をこまめに行うことが大切です。
吐きそうなとき・吐いてしまった直後
- 吐きやすい姿勢にする
横向きに寝かせ、顔を横に向けてあげましょう。仰向けのままだと、吐いたものが気管に入ってしまう(誤嚥)可能性があります。
- 吐き終わったら
吐いたものを優しく拭き取ってあげましょう。
- 水分補給は焦らずに
吐いた直後に水分を与えると、また吐いてしまうことが多いです。まずは嘔吐が止まるまで待ちましょう。嘔吐が止まってから1~2時間は胃や腸を休ませましょう。
水分補給の方法
- 経口補水液
最も理想的な水分です。電解質(塩分や糖分)がバランス良く含まれているので、脱水を効率的に改善してくれます。市販のものを活用しましょう。
- 麦茶や白湯
経口補水液を嫌がる場合は、麦茶や白湯でも構いません。
加えて、塩分の補給のためにみそ汁の上澄みを、当分の補給にすりおろしリンゴも良いです。
- 与え方
まずは嘔吐が止まるまで待ちましょう。嘔吐が止まってから1~2時間は胃や腸を休ませましょう。その後、上記の水分をスプーンで少しずつ、20分から30分おきに与えます。一度にたくさん与えないことがポイントです。
食事について
- 吐き気が治まり、水分が取れるようになったら、消化の良いものを少量から与え始めましょう。
- 離乳食期の場合
おかゆ、柔らかく煮たうどん、野菜スープなど。
- ミルクの場合
薄めたりせず、いつも通りの濃さのものを少量ずつ与えましょう。
こんな病気に要注意!
赤ちゃんの嘔吐は、単なる吐き戻しだけでなく、以下のような病気のサインであることもあります。
- 胃腸炎
ウイルス(ロタウイルス、ノロウイルスなど)や細菌によって引き起こされます。嘔吐だけでなく、下痢や発熱を伴うことが多いです。
- 肥厚性幽門狭窄症
生後2週間~2ヶ月頃の赤ちゃんに多く見られる病気です。胃の出口(幽門)の筋肉が分厚くなり、食べ物が腸に流れにくくなるため、ミルクを飲むたびに噴水のように勢いよく吐きます。吐いた後はお腹が空いてまた欲しがるのが特徴です。
- 腸重積症
腸の一部が、その先の腸に入り込んでしまう病気です。激しい腹痛、イチゴジャムのような血便、嘔吐が主な症状です。緊急性の高い病気なので、これらの症状が見られたらすぐに受診が必要です。
- 胃軸捻転(いじくねんてん)
胃が、その名の通りねじれてしまう病気です。突然の激しい腹痛や、何度も吐く、お腹がパンパンに張るなどの症状が見られます。
- 胃食道逆流(GERD)
胃の内容物が食道に逆流してしまう病気です。生理的な吐き戻しとは異なり、体重が増えない、ミルクを飲むのを嫌がる、呼吸器の症状(ゼーゼーする、咳が出る)を伴うことがあります。
- 髄膜炎
脳や脊髄を覆う髄膜に炎症が起きる病気です。嘔吐だけでなく、高熱、不機嫌、首の後ろが硬くなる、大泉門(赤ちゃんの頭の柔らかい部分)が膨らむなどの症状が見られます。非常に重篤な病気のため、疑わしい症状が見られた場合はすぐに病院を受診してください。
まとめ
赤ちゃんの嘔吐は、特に初めての子育てだと不安になりますよね。
「吐き戻し」と「嘔吐」を見分けることが、まず大切な一歩です。
- 吐き戻し:少量、タラタラと、吐いた後も元気。
- 嘔吐:噴水状、何度も繰り返す、黄色や緑色の液体、ぐったりしている。
もし少しでも「おかしいな」と感じたら、迷わず医療機関を受診してください。
特に、噴水状の嘔吐、元気がない、おしっこが出ない、お腹の痛み、血便は、緊急性の高いサインです。
何か心配なことがあれば当院を受診してください。
【SNSでも情報発信中!】
当院のSNSでは、小児科・皮膚科に関する役立つ情報や、季節ごとの病気の注意点などを発信しています。ぜひフォローしてください!
Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科

当院の外観写真
川崎市中原区
アクセス:武蔵小杉、新丸子、元住吉、武蔵中原、日吉
武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
院長 大熊 喜彰