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今、このブログを読んでくださっているあなたは、新しい命を育んでおられる妊婦さんでしょうか。妊婦さんではなくても、このブログの内容はお友達や同僚の妊婦さんに共有していただきたい予防接種と母子免疫の話です。
妊婦さんはみな、様々な情報が溢れる中で、「お腹の赤ちゃんのために何ができるだろう?」と真剣に考えておられることと思います。
小児科医として日々、感染症と闘う小さな赤ちゃん達を診ていると、「防げるはずだった病気」に苦しむ姿を見るのが、何よりつらいのです。
「ワクチン」と聞くと、産まれてから赤ちゃんが接種するもの、というイメージが強いかもしれません。 しかし今、医学の世界では「妊娠中に、お母さんがワクチンを接種すること」が、お母さん自身と、そして何より、産まれてくる赤ちゃんの命を守るために非常に重要であるというエビデンス(科学的根拠)が、次々と確立されています。
特に2025年10月7日、日本小児科学会から非常に重要なステートメント(妊婦さんへのワクチン接種に関する考え方)が発表されました。これは、私達小児科医にとって「待ってました!」と声を上げたくなるような、赤ちゃんの未来を守るための強力な後押しとなる内容です。
同じ内容は日本産婦人科感染症学会からも推奨されています(妊娠にむけて知っておきたいワクチンのこと)。
今日は、なぜ日本専門医機構認定小児科専門医が、妊婦さんにワクチン接種を強くお勧めするのか。その理由と、最新の情報を、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思います。
このブログに登場する4つのワクチンはすべて当院で接種していただけます。ご希望ありましたら、当院までお電話(044-739-0888)ください。
ご不明な点等ございましたらぜひご相談ください。
理由は、大きく分けて二つあります。
私が以前のブログ(それぞれの病気の怖さを知っている小児科医だからこそ、妊婦さんにお願いしたいこと)でも書いたように、小児科医はそれぞれの病気が持つ「本当の怖さ」を目の当たりにしています。大人がかかるとただの風邪でも、赤ちゃんにとっては命取りになる。そんな病気が、妊婦さんのワクチンで防げるのです。
特に、以下の4つは重要です。
「たかがインフルエンザ」ではありません。 妊婦さん自身が重症化しやすいことは前述の通りですが、産まれたばかりの赤ちゃんも同様です。生後6ヶ月未満の赤ちゃんはインフルエンザワクチンを接種できません。インフルエンザ感染により高熱や肺炎、脳症などを起こすリスクがあります。
妊婦さんがインフルエンザワクチンを接種すれば、お母さん自身の重症化を防ぐと同時に、赤ちゃんにも抗体が移行し、生後数ヶ月間のインフルエンザ発症を高い確率で防ぐことができます。これは毎年、流行シーズン前に(妊娠週数を問わず)接種することが推奨されます。
次に、新型コロナウイルス(COVID-19)です。 世界的なパンデミックは落ち着きを見せましたが、ウイルスが消滅したわけではなく、今も流行は続いています。そして、このウイルスも妊婦さんにとって大きな脅威です。
多くの研究から、妊娠中、特に妊娠後期にCOVID-19に感染すると、妊娠していない時よりも重症化(肺炎など)のリスクが高まることが明らかになっています。
そして、それはお母さんだけの問題ではありません。 お母さんが重症化すれば、お腹の赤ちゃんにも影響が及び、早産のリスクが高まることも指摘されています。
このCOVID-19に対しても、「母子免疫」が有効です。 妊娠中に新型コロナワクチン(現在はLP.8.1やXEC対応ワクチンなど、その時の流行株に対応したもの)を接種することで、お母さんの体内に強固な抗体が作られます。この抗体は、もちろん胎盤を通じて赤ちゃんへと移行します。
生後6ヶ月未満の赤ちゃんは、まだ新型コロナワクチンを接種できません。 しかし、彼らも感染すれば、高熱や咳、呼吸困難などで苦しみます。私達も、小さな体で懸命にウイルスと闘う赤ちゃんを数多く診てきました。
妊娠中のワクチン接種は、この「ワクチンを打てない空白期間」の赤ちゃんを、感染や重症化から守るための非常に有効な手段であることが、世界中のデータで示されています。日本小児科学会も、引き続き妊娠中の新型コロナワクチン接種を推奨しています。
大人がかかると、コンコンと長く続く咳。それだけかもしれません。 しかし、生後6ヶ月未満、特に生後2ヶ月未満の赤ちゃんが感染すると、全く違う病気になります。
彼らはうまく咳き込むことができません。咳の発作(レプリーゼ)が続いた後、息ができなくなり、顔が真っ青になる「無呼吸発作(チアノーゼ)」を起こします。息が止まるのです。 脳に障害が残ったり、命を落としたりすることさえあります。
この百日咳を防ぐのが、3種混合ワクチン(百日咳・ジフテリア・破傷風)です。当院では世界で妊婦さんに標準的に接種されている「Tdap(成人用三種混合ワクチン)」を輸入しており、接種することが可能です。日本の3種混合ワクチンは主に乳児に向けて使用されているため妊婦さんへの接種が認められているものの副反応の頻度がやや高いことがわかっています。この「Tdap(成人用三種混合ワクチン)」は成人用に調整し副反応が軽減されています。
妊娠中(推奨は27週~36週頃)に接種することで、赤ちゃんが産まれるまでに十分な「百日咳抗体」をプレゼントできます。
このウイルスこそ、私達小児科医が冬になると(ここ10年は夏も)最も警戒するウイルスの一つです。 大人がかかれば鼻風邪程度ですが、生後6ヶ月未満の赤ちゃんが初めてかかると、「細気管支炎(さいきかんしえん)」という重い呼吸器感染症になることがあります。また、「無呼吸」を呈し呼吸が止まってしまうことさえあります。
ゼーゼー、ヒューヒューと苦しそうな息づかいになり、呼吸が速く、浅くなります。ミルクも飲めなくなり、酸素投与や点滴が必要で入院となる赤ちゃんが、毎年冬の小児科病棟をいっぱいにします。 「武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科」でも、RSウイルスに感染した乳児を多く診察し、少なくない数を高次医療機関に紹介入院させています。
今までは、このRSウイルスに対して、産まれてくる赤ちゃんを守る有効な「予防接種」がありませんでした。
※重症化リスクの高い早産児などには「シナジス」という抗体製剤の注射がありますが、対象が限定的です。「ベイフォータス」という抗体製剤がリスクや合併症のない普通に分娩した赤ちゃんに接種することができますが、薬価が非常に高いためこのブログ記載時点では現実的ではないのが実情です。
しかし、ついに状況が変わりました。
今回、2025年10月7日に日本小児科学会が発表したステートメント(声明)の最大のポイントは、この「RSウイルスワクチン(妊婦さん用)」です。
2024年に、妊婦さん向けのRSウイルスワクチン(アブリスボ®)が日本でも製造販売承認され、2025年から接種可能となりました。
前述のように小児科学会・日本産婦人科感染症学会や、日本周産期・新生児医学会も、「接種を推奨する」と、非常に明確に述べられています。
これは「画期的」と言えます。 これまで、手の打ちようがなかった「赤ちゃんのRSウイルスによる入院」を、妊娠中の一度の接種で、大幅に減らせる可能性が出てきたのです。 小児科医として、これほど嬉しいニュースはありません。
ここまで読んでくださった方の中には、第2子、第3子を妊娠中のママもいらっしゃるでしょう。 もしかしたら、「え? 上の子の時は、そんな話(新型コロナや百日咳、RSウイルスワクチン)なんて、産婦人科で全く言われなかったけど…」と戸惑っておられるかもしれません。
その通りです。 数年前までは、妊婦さんに推奨されるワクチンは、せいぜいインフルエンザワクチンくらいでした。
でも、それは医学が進歩した証拠です。 当時はまだ、「妊婦さんに接種しても安全で、かつ、赤ちゃんを確実に守れる」というエヴィデンスが、今ほど強くありませんでした。新型コロナワクチンは存在すらしませんでしたし、百日咳ワクチンの推奨が一般的になったのもここ数年のことです。そして、RSウイルスワクチンに至っては、2024年にようやく承認された「最新の武器」なのです。
初めてお子さんを妊娠された妊婦さんにとって、これらの予防接種は非常に有益です。 そして、第2子や第3子を妊娠された妊婦さんにとっては、第1子を産んだ際はこれらのワクチン接種を勧めるような指導がなかったかもしれませんが、医学は日進月歩で進んでいます。
「あの時なかったものが、今はある」のです。
このブログを読んで、妊婦さんに対する予防接種が、今お腹の中にいる、これから生まれる新しい命を守る強力な手段であり、そして、お母さん自身をも守ってくれるものであることを、深くご理解いただけたなら、小児科医としてこれほど嬉しいことはありません。
妊娠中のワクチン接種は、お母さんから赤ちゃんへの、最初の「愛」のこもったプレゼントであり、病気から守る「お守り」です。もちろん、ワクチン接種には不安が伴うこともあるでしょう。
「いつ、どれを打ったらいいの?」
「副反応は大丈夫?」
「同時に打てる?」
ご不安・ご相談ありましたら当院までお電話(044-739-0888)ください。当院では上記4つのワクチン全て対応しており接種していただけます。
初めての妊娠の妊婦さんは、出産した後の我が子の「かかりつけ医」の下見として、当院でワクチン接種してはいかがでしょうか。
そして、私達小児科医は、産まれてくる赤ちゃんを万全の体制で迎える準備をしています。 「防げる病気は、確実に防ぐ」。 そのためのエビデンスに基づいた最新の情報を、これからも分かりやすく発信し続けます。
この情報が、武蔵小杉で出産を控えるすべての妊婦さんと、これから生まれる新しい命の健やかな未来に繋がることを、心から祈っています。
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Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)