お子さんのうんちに血が混じっているのを見つけたら、驚いて焦ってしまうと思います。「え、どうしよう?」「何か悪い病気なの?」と、不安でいっぱいになってしまいますね。
今回は、お子さんの「血便」について、日本小児科学会認定小児科専門医の立場から、親御さんが知っておくと安心できる情報をわかりやすくお伝えしたいと思います。

血便って、どんなうんちのこと?
まず、「血便」と聞くと、真っ赤な鮮血をイメージされる方が多いかもしれませんね。もちろんそれも血便ですが、血便には色々なタイプがあります。
- 鮮血(真っ赤な血): ティッシュで拭いた時に少量つく程度から、便器が真っ赤になるほど多量に出る場合まであります。便の表面に糸状に付着していることもあれば、便全体に混じっていることも。
- 粘血便(どろどろの便に血と粘液が混ざる): いちごジャムのような色で、ゼリー状の粘液に血液が混じったような便です。
- タール便(真っ黒な便): 真っ黒で、ねっとりとしたタール状の便です。これは、胃や十二指腸など、消化管の上部からの出血が、消化酵素と混じり合って酸化して変色したものです。墨汁のような色、と表現されることもあります。
お子さんのうんちの色や状態をよく見ていただくことは、原因を探る上でとても大切な情報になります。スマホで写真を撮っておいていただけると、受診時に非常に助かりますよ。
乳幼児期によく見られる血便の原因
生まれて間もない赤ちゃんから、よちよち歩きの幼児期にかけては、大人とは異なる特徴的な血便の原因があります。
1. 新生児メレナ(新生児期のみ)
- 特徴: 生後数日~1週間くらいの新生児期に、真っ黒なタール便や、少量の鮮血が便に混じることがあります。赤ちゃんは元気で、ミルクもよく飲みます。
- 原因: 赤ちゃんが、お母さんの血液(分娩時の血液や、授乳中のお母さんの乳首の亀裂からの出血など)を飲んで、それが便に混じって出てくるものです。また、新生児はビタミンKが不足しやすく、出血しやすい傾向にあるため、腸からのごく少量の出血が起こることもあります。
- 対応: ほとんどの場合、心配のない生理的な現象ですが、念のため小児科医の診察を受けましょう。ビタミンK欠乏性出血の予防として、出生時にビタミンKシロップを内服しますが、それ以外の原因がないか確認するためです。
2. 切れ痔
- 特徴: 便の表面に鮮血が付着していることが多いです。排便時に痛みを伴うこともあり、赤ちゃんが排便を嫌がったり、泣いたりすることがあります。便が硬い子に多いです。
- 原因: 便秘などで硬い便を無理に出そうとすることで、肛門の皮膚が切れてしまう状態です。大人にもよく見られますね。
- 対応: 便秘の解消が第一です。水分をしっかり摂らせる、離乳食が始まったら食物繊維を意識する、適度な運動を促すなどが大切です。すでに切れてしまっている場合は、清潔を保ち、保湿してあげることで改善します。
3. 乳児食物蛋白誘発胃腸症
- 特徴: 少量~中等量の粘血便(粘液と血液が混じったうんち)が出ます。便の回数が増えたり、下痢気味になったりすることも。全身の状態は比較的良好で、元気で体重増加も順調なことが多いです。ただし、重症の場合は体重増加不良や貧血をきたすこともあります。
- 原因: 母乳を飲んでいる赤ちゃんの場合、お母さんが摂取した牛乳や乳製品の成分が母乳中に移行し、赤ちゃんの腸に炎症を起こすことがあります。また、ミルクを飲んでいる赤ちゃんでは、ミルクに含まれる牛乳蛋白が原因となることもあります。
- 対応: 小児科で診断を受けた場合、アレルギーの原因となっている食物(牛乳など)を除去する食事療法を行います。母乳育児の場合はお母さんが乳製品を除去し、ミルクの場合は牛乳アレルギー用のミルク(加水分解乳やアミノ酸乳)に変更します。
4. 細菌性腸炎
- 特徴: 発熱、嘔吐、腹痛などの症状を伴って、粘血便や水様性の血便が出ることが多いです。ぐったりして元気がない、食欲がないといった全身症状が強い傾向があります。
- 原因: サルモネラ菌、O-157などの腸管出血性大腸菌、カンピロバクターなど、細菌感染によって腸に炎症が起こる病気です。
- 対応: 早期の受診が必要です。脱水症状があれば点滴が必要になることもあります。原因菌によっては抗菌薬を使用することもありますが、自己判断せずに必ず医療機関を受診してください。
5. 腸重積症
- 特徴: 比較的元気だった赤ちゃんが、突然激しい腹痛で泣き出し、しばらくするとケロッと元気になる、ということを繰り返します(間欠的啼泣)。嘔吐を伴うことも多く、時間の経過とともに「イチゴジャム様の血便」が出ることが特徴的です。ぐったりして顔色が悪くなることもあります。
- 原因: 腸の一部が、隣接する腸の中にはまり込んでしまう病気です。いわば、望遠鏡の筒が縮むように腸が重なってしまう状態です。生後3ヶ月~2歳くらいのお子さんに多く見られます。
- 対応: 緊急性の高い疾患です!「イチゴジャム様の血便」が出た場合は、すぐに救急受診してください。時間が経つと腸が壊死してしまう危険性があります。
小児期(幼児期~学童期)によく見られる血便の原因
幼児期から学童期にかけては、乳幼児期とは少し異なる原因も加わってきます。
1. 感染性腸炎(細菌性・ウイルス性)
- 特徴: 乳幼児期と同様に、細菌性(サルモネラ菌、O-157などの腸管出血性大腸菌、カンピロバクターなど)の場合は発熱、嘔吐、腹痛を伴う粘血便や水様性の血便が見られます。ウイルス性の場合は、ロタウイルスやアデノウイルスなどによるもので、水様性の下痢が主体ですが、ごく稀に血が混じることもあります。
- 原因: 食中毒や感染した人からの接触などによって、ウイルスや細菌が体内に侵入し、腸に炎症を起こします。
- 対応: 十分な水分補給が大切です。脱水に注意しながら、症状に応じて医療機関を受診してください。
2. 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)
- 特徴: 繰り返し起こる腹痛、慢性的な下痢(しばしば血便を伴う)、体重減少、発熱などの症状が見られます。血便は粘液混じりのものや、鮮血の場合もあります。症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。
- 原因: 自分の免疫が腸を攻撃してしまう自己免疫疾患と考えられています。原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的要因や環境要因が関係すると言われています。
- 対応: 専門的な治療が必要です。小児消化器専門医による診断と治療(薬物療法など)が行われます。
3. メッケル憩室
- 特徴: 突然、大量の鮮血が便に混じる、または真っ黒なタール便が出ることがあります。腹痛を伴わないことが多いのが特徴です。貧血が進行する場合もあります。
- 原因: お腹の中に、本来消えるはずの「卵黄腸管」というものが一部残ってしまい、そこから出血する病気です。先天性の異常で、小腸の一部に袋状の突起ができます。
- 対応: 大量出血の場合は緊急手術が必要になることもあります。小児科医による診断が重要です。
4. 大腸ポリープ
- 特徴: 便の表面に鮮血が付着したり、便器に血がつく程度の出血が見られます。ポリープが大きいと、便の通過を妨げて腹痛を伴うこともあります。
- 原因: 大腸の粘膜にできる良性の隆起です。小児期に見られるポリープのほとんどは「若年性ポリープ」と呼ばれる良性のものです。
- 対応: 出血が続く場合や、ポリープが大きい場合は、内視鏡で切除する治療が行われます。
こんな時はすぐに病院へ!緊急性が高い血便のサイン
お子さんの血便で、以下のような症状が見られる場合は、迷わずすぐに医療機関を受診してください。
- 血便の量が多い(便器が真っ赤になる、下着に大量につくなど)
- イチゴジャム様の血便
- ぐったりしている、顔色が悪い、元気がない
- 激しい腹痛を伴う
- 何度も吐く、嘔吐を繰り返す
- 高熱がある
- お腹が張っている
これらの症状は、緊急性の高い病気のサインである可能性があります。夜間や休日でも、救急外来を受診しましょう。
最後に
お子さんのうんちに血が混じっているのを発見すると、誰もが不安になるものです。しかし、血便の原因は多岐にわたり、中には心配のないものも緊急性が高いものもいろいろあります。大切なのは、まずは慌てずにうんちの状態(色、量、粘液の有無など)や、お子さんの元気さ、他の症状(熱、嘔吐、腹痛など)をよく観察することです。
そして、「おかしいな」「元気がないな」と思ったら、迷わず小児科を受診してください。
当クリニックでは、「家族とともに未来を担うこども達の健やかな成長と幸せを目指します」という理念のもと、エビデンスに基づいた診療を大切にしながらも、お子さん一人ひとりに合わせた丁寧でわかりやすい説明を心がけています。心配なことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。