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「うちの子、耳垢が溜まっているみたいで…」
「お風呂上がりに、ついつい耳そうじしちゃいます」
日々の診療の中で、保護者の方からこういったご相談をいただくことがよくあります。特にお子さんの耳は小さくてデリケートな分、「汚れていると、なんだか心配」と感じる方も多いのではないでしょうか。
でも実は、子どもの耳そうじは基本的に不要なんです。
今回は、耳垢が溜まりすぎて起こる「耳垢塞栓(じこうそくせん)」について、そして「どうして耳そうじはしない方がいいの?」という疑問に、小児科医の立場からお答えします。
耳垢塞栓とは、耳の穴(外耳道)に耳垢がびっしり詰まってしまい、耳の穴を完全に塞いでしまった状態を指します。
「たかが耳垢でしょ?」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、耳垢が詰まりすぎてしまうと、さまざまな問題を引き起こします。
特に小さなお子さんの場合、自分の症状を言葉でうまく伝えられないことがほとんどです。そのため、「テレビの音量が大きくなった」「呼びかけても反応が鈍い」「耳をよく触る、こする」といった変化が見られたら、耳垢塞栓のサインかもしれません。
「じゃあ、耳そうじしないと耳垢が溜まっちゃうでしょ?」
ご安心ください。健康な耳には、耳垢を自然に外へ排出する「自浄作用」という素晴らしい機能が備わっています。
耳垢は、外耳道の皮膚が奥から手前に向かって少しずつ移動することで、自然と外へ押し出される仕組みになっています。この自浄作用があるため、基本的に耳そうじは必要ありません。それどころか、お子さんの耳にみみかきや綿棒を入れることは、多くのリスクを伴います。
みみかきや綿棒で耳そうじをすると、かえって耳垢を奥へ奥へと押し込んでしまうことになります。これが耳垢塞栓の大きな原因の一つです。特に綿棒は、耳垢を押し込むだけでなく、耳の壁にこびりつかせ、さらに取れにくくしてしまうこともあります。
外耳道の皮膚は、大人の皮膚よりも非常に薄く、デリケートです。みみかきや綿棒で少しでも強く擦ってしまうと、簡単に傷がついてしまいます。この傷から細菌が入り込むと、外耳炎や中耳炎といった炎症を引き起こす可能性があり、非常に危険です。
また、外耳道の皮膚にずっと刺激を加え続けてしまうと、外耳道がんのリスクにもなると言われています。
お子さんの耳は小さいため、少しの不意な動きでも、みみかきや綿棒が奥に入り込んでしまい、鼓膜を傷つけてしまうことがあります。鼓膜に穴が開いてしまうと、聞こえが悪くなったり、痛みが生じたりするなど、深刻な事態につながりかねません。
「わかってはいるけど、耳の穴から出ている耳垢はやっぱり気になる…」
そう思われるお気持ち、よくわかります。
もし、どうしても気になる場合は、耳の穴の入り口に見えている耳垢だけを、お風呂上がりなどに濡らしたタオルやティッシュで優しく拭き取る程度に留めておきましょう。
決して、耳の穴の中にみみかきや綿棒を差し込まないでください。
お子さんの耳の奥に耳垢が詰まっているように見えたり、聞こえにくそうにしているなど、耳垢塞栓が疑われる場合は、ご家庭で無理に取ろうとせず、必ず耳鼻科を受診してください。
耳鼻科では、耳垢を溶かすお薬をつけたり、専用の器具を使って安全に耳垢を取り除いてくれます。特に固く詰まってしまった耳垢も、ごく短時間で、痛みもなくきれいに取ることができます。
ここまで、耳垢塞栓と耳そうじの危険性についてお話してきました。
お子さんの耳は、私たち大人が思う以上にデリケートです。みみかきを「愛情表現」の一つとして捉えている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は「何もしない」ことこそが、お子さんの耳を守る一番のケアになるのです。
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)