今回は、そんな肌トラブルの中でも特に注意が必要な「カンジダ皮膚炎」について、小児科医と皮膚科医の両方の視点から、分かりやすく、そして詳しくお伝えしたいと思います。


 

その赤み、ただのおむつかぶれじゃないかも?

赤ちゃんのおむつ周りや、首のしわ、脇の下など、蒸れやすい場所にできる赤みやかぶれ。多くの場合、「おむつかぶれ」や「あせも」を想像するかもしれません。もちろん、それらの可能性も高いのですが、もし、

  • ジュクジュクして、なかなか治らない
  • 赤いブツブツが、周りにまで広がっている
  • 白いカスのようなものが付いている

といった症状が見られる場合は、カンジダ皮膚炎の可能性も考えてみる必要があります。

「カンジダ」と聞くと、少し怖いイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんね。でも大丈夫です。適切なケアと治療で、お子さんのデリケートなお肌を健康な状態に戻すことができますから、ご安心ください。

 

カンジダって、なあに?どこからくるの?

カンジダとは、実は私たちの身の回りのどこにでも存在する真菌(カビの一種)です。普段から健康な人の皮膚や口の中、腸の中にも少量存在しています。でも、体調が悪かったり、免疫力が低下したり、または湿気が多くて蒸れやすい環境が続くと、このカンジダ菌が増殖して炎症を起こしてしまうことがあります。これが「カンジダ皮膚炎」です。

特に赤ちゃんは、まだ皮膚のバリア機能が未熟な上、おむつをしたり、ミルクを吐き戻したりして常に肌が湿りやすい環境にあります。そのため、カンジダ菌が増殖しやすく、皮膚炎を起こしやすいのです。


 

赤ちゃんがカンジダ皮膚炎になりやすい場所と特徴的な症状

カンジダ皮膚炎は、湿気がこもりやすい場所にできやすいのが特徴です。

 

1. おむつの中(おむつカンジダ症)

これが一番よく見られるパターンです。おしっこやうんちで常に湿った状態のおむつの中は、カンジダ菌にとって格好の繁殖場所です。

  • 症状:
    • 赤いブツブツ(丘疹)が広範囲に広がる
    • ブツブツがくっついて地図状に広がる(浸潤性紅斑)
    • 赤くなった部分の周りに、衛星状に小さなブツブツ(衛星病変)が点々と広がる
    • ひどくなるとジュクジュクしてただれる
    • おむつかぶれと異なり、おむつの当たらないしわの中にも赤みが広がる

おむつかぶれとの見分け方は、この「衛星病変」と「しわの中にも広がる赤み」がポイントです。普通のおむつかぶれは、おむつが触れる部分にだけ赤みが限定的で、しわの奥は比較的きれいです。

 

2. 首のしわ、脇の下、肘の内側、膝の裏(間擦疹)

汗をかきやすく、しわになって皮膚がこすれやすい部分も注意が必要です。特に、首のしわはミルクの吐き戻しなどで汚れやすく、蒸れやすいのでカンジダ皮膚炎になりやすい場所です。

  • 症状:
    • 赤くただれて、ジュクジュクする
    • 皮膚がめくれてしまうこともある
    • 白いカスのようなものが付着することもある

 

3. 口の周り(口角炎、口囲皮膚炎)

よだれが多く、口の周りが常に湿っている赤ちゃんに見られることがあります。

  • 症状:
    • 口の端(口角)が赤く切れたり、ただれたりする(口角炎)
    • 口の周り全体が赤くカサカサしたり、ジュクジュクしたりする

 

どうしてカンジダ皮膚炎になっちゃうの?原因を理解しよう!

カンジダ皮膚炎は、以下の要因が重なることで発生しやすくなります。

  1. 湿気と温かさ:
    カンジダ菌は、ジメジメして暖かい場所が大好きです。おむつの中やしわの中は、まさにその環境。
  2. 皮膚のバリア機能の低下:
    赤ちゃんの皮膚はとてもデリケートで、大人に比べてバリア機能が未熟です。ちょっとした刺激でも傷つきやすく、菌が入り込みやすくなります。
  3. 免疫力の低下:
    風邪を引いている時など、一時的に体の抵抗力が落ちると、カンジダ菌が増殖しやすくなることがあります。
  4. 抗生剤の使用: 抗生剤を飲むと、体の中の良い菌(常在菌)も減ってしまいます。カンジダ菌は抗生剤に影響を受けにくいため、良い菌が減った隙に増えすぎてしまうことがあります。
  5. 不適切なスキンケア:
    汗や汚れをそのままにしてしまったり、逆に洗いすぎたり、ゴシゴシ擦りすぎたりすると、皮膚のバリア機能が損なわれ、カンジダ皮膚炎のリスクが高まります。

 

疑わしいと思ったら、まずは小児科・皮膚科へ!

「うちの子、カンジダ皮膚炎かもしれない…」と少しでも疑ったら、自己判断せずに、まずは小児科か皮膚科を受診してください。

医師は、お肌の状態を診察し、必要に応じて皮膚の一部を少しだけこすり取り、顕微鏡でカンジダ菌がいるかどうかを確認します。これは痛みもほとんどなく、すぐに終わりますのでご安心ください。

 

治療の基本は「抗真菌薬」

カンジダ皮膚炎と診断された場合、治療の基本は抗真菌薬(カビを退治するお薬)の塗り薬です。

「ステロイドは使わないの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。一般的なおむつかぶれや湿疹にはステロイド軟膏が有効なことが多いですが、カンジダ皮膚炎にステロイドを塗ると、かえってカンジダ菌が増殖して症状が悪化してしまうことがあります。そのため、カンジダ皮膚炎には抗真菌薬が必須となります。

当クリニックでは、お子さんの症状や皮膚の状態に合わせて、最適な抗真菌薬を選び、塗り方についても丁寧にご説明します。


 

カンジダ皮膚炎の予防とホームケアのポイント

治療と並行して、ご家庭でのケアも非常に大切です。適切なケアで、お子さんの肌を優しく守ってあげましょう。

 

1. こまめなおむつ交換

これが一番重要です。おしっこやうんちが出たら、すぐに交換してあげましょう。できれば、うんちの後はお尻をシャワーで洗い流し、優しく水分を拭き取ってあげるとさらに良いです。ゴシゴシ擦らず、タオルでポンポンと押さえるように水気を吸い取ってくださいね。

 

2. 常に清潔を保つ

おむつ交換の際は、おしり拭きで優しく拭き取ります。この時もゴシゴシ擦らず、押さえるように拭き取りましょう。首のしわや脇の下なども、汗をかいたらこまめに拭いてあげたり、お風呂で優しく洗って清潔に保ちましょう。

 

3. 十分に乾燥させる

お風呂上がりやシャワーの後、おしりを洗った後などは、十分に乾燥させることが大切です。ドライヤーの冷風で優しく乾かしてあげたり、少しの間おむつを外して空気に触れさせてあげるのも良いでしょう(ただし、おしっこやうんちには注意してくださいね!)。

 

4. 通気性の良い衣類を選ぶ

肌着や衣類は、綿などの吸湿性の良い素材を選びましょう。締め付けの少ないゆったりとしたデザインのものがおすすめです。

 

5. スキンケア製品の選び方

保湿剤は、肌のバリア機能を助けるために重要ですが、カンジダ皮膚炎がある場合は、清潔にして乾燥させてから、医師の指示に従って使用してください。炎症がひどい場合は、まず治療を優先します。

 

6. 指しゃぶりやよだれ対策

口の周りのカンジダ皮膚炎が気になる場合は、よだれかけをこまめに交換したり、食後に口の周りを優しく拭いてあげるなど、清潔を保つように心がけましょう。


 

Q&A:親御さんからのよくある質問

 

Q1. カンジダ皮膚炎は人から人にうつりますか?

A. はい、稀にうつることがありますが、日常生活の中で神経質になる必要はありません。カンジダ菌はもともと私たちの体にいる常在菌なので、家族がカンジダ皮膚炎になったからといって、過度に心配する必要はありません。ただし、お風呂のタオルを共有しない、手洗いをしっかり行うなど、一般的な衛生習慣は大切にしてください。

 

Q2. 症状が良くなったら、薬はすぐにやめてもいいですか?

A. 自己判断で薬を中断せず、必ず医師の指示に従ってください。見た目がきれいになっても、皮膚の奥にまだカンジダ菌が残っている場合があります。途中でやめてしまうと、すぐに再発してしまうこともあります。医師が「もう大丈夫ですよ」と言うまで、指示された期間はしっかりと薬を塗り続けることが大切です。

 

Q3. おむつかぶれとカンジダ皮膚炎、どうやって見分けたらいいですか?

A. 一番の違いは、前述した「衛星病変」と「しわの中への広がり」です。おむつかぶれは、おむつが当たる部分に赤みが限定的で、しわの奥は比較的きれいです。一方、カンジダ皮膚炎は、メインの赤い部分の周りに小さな赤いブツブツが点々と広がり、しわの中にも赤みが入り込んでいることが多いです。しかし、見た目だけでは判断が難しいことも多いので、心配な場合は必ず医療機関を受診してください。


 

まとめ:早期発見・早期治療、そして毎日の優しいケアが大切!

お子さんのカンジダ皮膚炎は、適切な治療と毎日のこまめなケアで、必ず良くなります。

  • 「あれ?いつもと違うな」と感じたら、早めに小児科や皮膚科を受診しましょう。
  • 医師の指示通りに、抗真菌薬をしっかりと使いましょう。
  • おむつをこまめに替え、清潔で乾燥した状態を保ちましょう。
  • 優しく丁寧に、でもしっかりとスキンケアを続けましょう。

私たち「武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科」では、お子さんの健やかな成長を家族とともにサポートできるよう、エビデンスに基づいた分かりやすい説明と、お子さん一人ひとりに寄り添った優しい診療を心がけています。

もしお子さんの肌トラブルで気になることがあれば、どんな小さなことでも遠慮なくご相談ください。

 

武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科の外観写真の画像
当院の外観写真