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「急に、子どもが腕を動かさなくなった!」
「痛い!って泣き止まないんだけど、どこも腫れてないし、骨折かな?」
そんな経験、もしかしたらある方もいらっしゃるかもしれません。今回は、小さなお子さんによく見られる「肘内障(ちゅうないしょう)」という状態についてお話ししたいと思います。
肘内障とは、簡単に言うと「肘の関節が少しだけズレてしまう状態」のことです。医学的には、肘の関節を構成する「橈骨(とうこつ)」という骨の先端が、その周りにある「輪状靭帯(りんじょうじんたい)」というバンドのようなものから、少しだけ外れてしまうことを指します。
「靭帯が外れるなんて、なんだか大ごと…」
そう思われるかもしれませんが、ご安心ください。骨折のように骨が折れているわけではなく、靭帯が完全に断裂しているわけでもありません。あくまで「ズレ」が生じている状態なので、適切な処置をすればすぐに治ることがほとんどです。
特に1歳から5歳くらいのお子さんに多く見られますが、中には小学校に入ってからでも起こることがあります。なぜこの年代のお子さんに多いかというと、この時期はまだ骨や靭帯が十分に発達しておらず、関節が柔らかいため、ちょっとしたことでズレやすいからです。
日本整形外科学会HPから引用
肘内障は、ある特定の動きや、腕に力が加わった時に起こりやすい特徴があります。親御さんが「あ!」と思うような、日常によくあるシチュエーションをいくつかご紹介しましょう。
このように、親御さんの良かれと思った行動や、ちょっとした不注意で起こってしまうことがほとんどです。決して親御さんのせいではありませんので、ご自分を責めないでください。
お子さんが肘内障になってしまった時、どんな様子を見せるのでしょうか?いくつか特徴的な症状があります。
もし、これらの症状が見られたら、「もしかして肘内障かな?」と考えてみてください。
お子さんが肘内障の症状を見せたら、まずは慌てずに以下のことに気をつけましょう。
病院を受診すると、まず医師が症状を詳しく聞き、腕の動きや痛がっている様子を観察します。骨折ではないか、他の病気ではないかを確認するために、レントゲン撮影を行うこともありますが、肘内障の診断にレントゲンは必須ではありません。典型的な症状であれば、レントゲンを撮らずに整復を行うこともよくあります。
整復は、医師が肘の関節を特定の方向に動かすことで行います。多くの場合、ものの数秒から数十秒で完了し、「カクッ」という小さな音が聞こえることもあります。
お子さんは一瞬痛がるかもしれませんが、整復が成功すると、すぐに痛みがなくなり、腕を動かせるようになることがほとんどです。整復後、すぐに泣き止んで、おもちゃで遊びだしたり、いつも通り腕を使い始めるお子さんも少なくありません。その様子を見ると、親御さんもホッと胸をなでおろすことでしょう。
ただし、すぐに腕を使わないからといって、整復がうまくいっていないわけではありません。痛みがないのに、まだ少し恐る恐る動かさない子もいます。しばらく様子を見て、完全に普段通りになるかを確認します。
一度肘内障になったお子さんは、残念ながら再発しやすい傾向があります。これは、一度靭帯がズレたことで、関節が少し緩くなりやすいためです。再発を防ぐために、日常生活で以下のことに気をつけましょう。
もし、再発してしまった場合でも、慌てずに再度医療機関を受診してください。何度も繰り返す場合は、より慎重な経過観察が必要になることもあります。
肘内障は、小さなお子さんによく見られる比較的軽症の外傷です。しかし、お子さんにとっては突然の強い痛みと、腕が動かせないことへの不安で、とてもつらい経験となります。
親御さんが肘内障について正しい知識を持っていれば、万が一の時にも落ち着いて病院受診することができ、お子さんの痛みを早く取り除いてあげることができます。
何か気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)