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ブログ執筆時点(2025年10月24日)でインフルエンザの流行がはじまっており、沖縄県での患者数が一番多くその次に東京都・神奈川県と続く状況です。
神奈川県川崎市にある当院でも、高熱を出しインフルエンザと診断される患者が増えている状況です。
わが子がぐったりと高熱を出している姿を見るのは、親御さんにとって本当につらい時間かと思います。「早く良くなってほしい」と、一晩中そばで見守る方も多いと思います。
そんな時、こんなことを聞いたことはありませんか?
「インフルエンザにかかると、おかしなことを言ったり、行動したりすることがある」
「タミフルを飲むと、飛び降りたりするって本当?」
ただでさえ高熱で心配なのに、もしわが子が急に意味のわからないことを話しだしたり、走り出したりしたら…。想像しただけで、怖くなるかもしれません。
これからのインフルエンザ流行期において、この「インフルエンザと異常行動」の問題は、ぜひ正確に知っておいていただきたい大切なテーマです。
この記事では、なぜ異常行動が起こるのか、抗インフルエンザ薬との関係、そして何より注意すべき「インフルエンザ脳症」について、具体例を交えながら解説していきます。
まず、「異常行動」とは具体的にどのような状態を指すのでしょうか。 これらは医学的には「熱せんもう」と呼ばれる状態の一部であることが多いです。
これらの症状は、見ているご家族にとっては非常にショッキングです。 「うちの子、頭がおかしくなってしまったんじゃないか…」とパニックになるのも無理はありません。
実は、これらの異常行動の多くは「熱せんもう」と呼ばれる状態で、インフルエンザウイルス感染にともなって高熱が出ているときにみられます。
インフルエンザは、ご存知の通り39℃や40℃といった高熱が急激に出ることが特徴です。こどもの脳はまだ発達途中でデリケートなため、急激な高熱によって脳が一時的に混乱し、いわば「オーバーヒート」のような状態になってしまうことがあります。
熱せんもうは、インフルエンザに限らず、高熱を伴う他の感染症(例えばアデノウイルスや突発性発疹など)でも起こる可能性があります。 多くの場合、発熱してから1~2日以内、特に熱がグッと上がるタイミングや、夜間・早朝など意識がはっきりしない時間帯に起こりやすい傾向があります。
「タミフルなどの抗インフルエンザ薬が異常行動を引き起こすのではないか」と考え、薬の使用をためらわれる親御さんもいらっしゃるかもしれません。
この点については、厚生労働省の研究班をはじめ、世界中で大規模な調査が行われました。 その結果、現在では
「抗インフルエンザ薬を飲んでいても、飲んでいなくても、インフルエンザによる高熱時には同じように異常行動は起こり得る」
ということがわかっています。 つまり、薬が異常行動の直接的な原因であるという明確な証拠は見つからなかったのです。
むしろ、抗インフルエンザ薬によって高熱の期間が短くなれば、結果として「熱せんもう」が起こるリスクを減らせる可能性もあります。 ですから、医師が「インフルエンザの治療に必要」と判断して処方した場合は、異常行動を過度に恐れて自己判断で薬をやめたりせず、しっかりと服用させてあげてください。
「なんだ、熱せんもうなら一時的なものか。じゃあ安心だ」 そう思われるかもしれません。
しかし、ここからが非常に重要なお話です。
インフルエンザの際に起こる異常行動の中には、ごくまれではありますが、命に関わる本当に恐ろしい病気、「インフルエンザ脳症」の初期症状である可能性が隠れているのです。
インフルエンザ脳症は、「熱せんもう」とは全く異なります。 これは、インフルエンザウイルスに感染したことをきっかけに、体の免疫システムが暴走し(専門的にはサイトカインストームと呼ばれます)、自分の脳を攻撃してしまう病気です。
ウイルスが直接脳を破壊するのではなく、ウイルスと戦うはずの免疫が過剰に反応し、その結果、脳全体が急激に腫れ上がって(脳浮腫)、深刻なダメージを受けてしまうのです。
例えるなら、「家の中に小さなボヤ(ウイルス)が出た!」と慌てた消防隊(免疫)が、消火のために家が水浸しになるほど大量の水をまき散らし、家そのもの(脳)をダメにしてしまうようなイメージです。
「熱せんもう」と「脳症」は、初期症状が似ているため見分けがつきにくいことがあります。 しかし、脳症は発症から数時間~1日という非常に速いスピードで進行します。以下のサインを見逃さないでください。
インフルエンザ脳症は、誰にでも起こるわけではありませんが、特に乳幼児(5歳以下)に発症しやすいとされています。
幸い、近年の治療法(ステロイドや免疫グロブリン、脳低体温療法など)の進歩により、救命率は以前より改善しました。 しかし、それでも致死率は約5~10%と報告されており、決してゼロではありません。 また、命が助かったとしても、約25%(4人に1人)のお子さんに、発達の遅れ、てんかん、運動麻痺などの重い後遺症が残る可能性がある、非常に怖い病気なのです。
では、インフルエンザのわが子が夜中に突然おかしなことを言いだしたら、どうすればよいのでしょうか。
親御さんにはパニックにならず冷静に、と言いたいところですが、難しいですよね。 ですが、これだけは最優先でお願いします。
転落・飛び出し事故の防止です。
熱せんもうの状態では、本人は夢うつつで、自分が何をしているかわかっていません。
お子さんから絶対に目を離さず、必ず大人がそばに付き添っていてください。
安全を確保したら、お子さんの様子を注意深く観察してください。
これらの情報は、病院を受診した際に、医師が「熱せんもう」なのか「脳症の疑い」なのかを判断する上で、非常に重要な手がかりとなります。
これが一番悩むところだと思います。夜中や休日に救急病院へ行くべきか…。
【すぐに救急車を呼ぶか、夜間救急へ直行!】
【夜間・休日でも受診を検討】
【翌日の日中受診でもOKな場合】
ただし、日中にかかりつけ医を受診した際には、「昨日の夜、熱せんもうのような症状があった」ということを必ず医師に伝えてください。
インフルエンザ脳症には特効薬がありません。だからこそ「予防」が何よりも大切です。
「ワクチンを打ってもインフルエンザにかかったよ?」という声も聞きます。 確かに、ワクチンは感染を100%防ぐものではありません。
しかし、ワクチンの最大の目的は「重症化を防ぐこと」です。 インフルエンザワクチンを接種しておくことで、もし感染してしまっても、高熱の程度を軽くしたり、入院や合併症(肺炎、そして脳症)のリスクを大幅に減らすことができます。
特に脳症のリスクが高い乳幼児ご本人と、ウイルスを家庭に持ち込まないために、ご家族(お父さん、お母さん、ご兄弟、おじいちゃん、おばあちゃん)全員が接種することが、お子さんを守る最も有効な手段です。
昨年からは痛くなく1回で済むスプレータイプの経鼻インフルエンザワクチンも使えるようになりました(2~18歳)。
当院では、従来の注射ワクチンも経鼻ワクチンもともに取り扱っており、こどもだけでなくご家族も接種していただけます幸いまだ流行の初期ですので、お早目のご予約をお勧めします。
<参考>
当院HPおしらせ「【10/1~接種開始しています】2025年度インフルエンザワクチン」
インフルエンザの際、解熱剤(熱冷まし)の使い方には注意が必要です。
こどものインフルエンザの際に使用して良い解熱剤は、原則として「アセトアミノフェン」(商品名:カロナール、アルピニー坐剤、アンヒバ坐剤など)です。
以下の解熱剤は、インフルエンザ脳症との関連が否定できず、原則としてこどものインフルエンザには使用しません。
また、アスピリン(商品名:バファリンなど)も、インフルエンザや水ぼうそうの時に使用すると「ライ症候群」という別の重い病気を引き起こすリスクがあるため、小児には通常使用しません。
お手持ちの解熱剤がどの成分かわからない場合は、必ず医師や薬剤師にご相談ください。
インフルエンザの時の「異常行動」。 その多くは高熱による一時的な「熱せんもう」であり、熱が下がれば元に戻ることがほとんどです。 しかし、その背景には、ごくまれに「インフルエンザ脳症」という命に関わる病気が隠れている可能性もあります。
大切なのは、パニックにならず、「① 安全確保」と「② 冷静な観察」です。 そして、「いつもと違う」「何かおかしい」というご家族の直感を何より大切にしてください。
私たち「武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科」は、「家族とともに未来を担うこども達の健やかな成長と幸せを目指します」という理念のもと、日々診療にあたっています。インフルエンザの流行期は、私たち小児科医にとっても戦いの時です。
不安なことがあれば、かかりつけ医である私たちにご相談ください。
【SNSでも情報発信中!】
当院のSNSでは、小児科・皮膚科に関する役立つ情報や、季節ごとの病気の注意点などを発信しています。ぜひフォローしてください!
Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)