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日々の診療の中で、お父さんお母さんから、本当によくいただく質問があります。
「先生、前に風邪をひいた時にもらったお薬が残っているんですが、今回も使っていいですか?」
「シロップって、冷蔵庫に入れておけば、次の発熱の時にも使えますか?」
「塗り薬のチューブ、これって去年のだけど…大丈夫?」
お気持ち、とてもよくわかります。 こどもは急に熱を出したり、咳をしたりします。そんな時、手元に薬があると少し安心しますよね。でも、ちょっと待ってください。 その「残っているお薬」、本当に使っても大丈夫でしょうか? そして、そのお薬、正しく「保管」できていますか?
お薬には、食べ物と同じように「適切な保存方法と使用期限」があります。特にこどものお薬は、飲みやすくするために特別な加工(調剤)がされていることが多く、大人の薬よりもデリケートです。
皆さんが最も疑問に思う「処方されたお薬の保存期間と正しい保管方法」について解説します。
まず、お薬の種類別解説に入る前に、すべてのお薬に共通する「保管の基本」からお話しします。ここを間違えると、どんな薬もすぐにダメになってしまいます。
お薬は非常にデリケートです。
ダメな場所の例⇒⇒台所(湿気・高温)、窓際(直射日光)、車の中(高温)
お薬をお渡しする際、「冷蔵庫で保管してください」とか「室温で大丈夫です」といった説明があるはずです。これは非常に重要です。
<冷蔵庫保管の落とし穴!>
「冷所保存」=「キンキンに冷やせば良い」わけではありません。 冷蔵庫の冷気の吹き出し口付近は、時に0℃以下になり、薬が「凍結」してしまうことがあります。シロップや坐薬が凍ってしまうと、成分が分離したり変質したりして、元に戻りません。
冷蔵庫に入れる場合は、ドアポケットや野菜室など、冷えすぎない場所がおすすめです。
これは、小児科医として最も強くお願いしたいことです。 こどもは何にでも興味を持ちます。甘いシロップや、きれいな色のシートに埋まっている錠剤は、こどもにとって「お菓子」に見えてしまいます。
誤飲事故は、ご家族が「ちょっと目を離した隙」に起こります。 必ず、こどもの目線より高い場所、手の届かない場所(鍵のかかる棚などがベスト)に保管してください。
保管の基本がわかったところで、次に「期限」の話です。 お薬の箱や容器に書かれている「使用期限」。 これは、「未開封の状態で、正しく保管された場合に、その品質が保証される期限」のことです。スーパーで売っている牛乳パックに書いてある「賞味期限」と同じようなものだと考えてください。
しかし、私たちが処方薬としてお渡しするお薬の多くは、その場で調剤されています。
これらはすべて、お薬の「開封」であり、「調剤」です。 牛乳パックの封を開けたら、賞味期限に関わらず「お早めにお飲みください」となりますよね? お薬も全く同じです。
一度「調剤」されたお薬は、もはや箱に書かれた「使用期限」の対象ではありません。私たちが気にすべきは、調剤後の「安定して使用できる期間」なのです。
では、具体的に「粉薬」「シロップ」「塗り薬」など、種類別にみていきましょう。
こどもの処方で最も多いのが、1回分ずつ小さな袋(分包紙)に分けられた粉薬ですね。
【院長からのアドバイス】
ジメジメした場所(台所や洗面所など)は絶対にNG。袋の中でカチカチに固まったり、逆にベタベタになったりします。こうなると、成分が変化している可能性が非常に高いです。直射日光の当たらない、涼しくて乾燥した場所に保管してください。缶やジッパー付きの保存袋に入れるのも良い方法です。 基本は「処方された日数で飲み切る」。残ったら、基本的には廃棄が安全です。
ここが最も注意が必要なポイントです!
【院長からの最重要アドバイス】
処方された日数を過ぎた抗生剤シロップは、
この2つの重大なリスクがあります。 残っていても必ず捨ててください。これは「もったいない」ではなく、「こどもの命を守る」ための大切な約束です。
皮膚科・小児皮膚科診療も行っている当院では、塗り薬のご質問も非常に多いです。
<ワンポイント>
塗り薬は、開封した日付をマジックでチューブや容器に書いておくと、管理がとても楽になりますよ。
こどもは結膜炎(はやり目)やアレルギー性鼻炎にもよくなりますね。
<アドバイス>
坐薬は体温で溶けるように作られています。室温保存のものでも、夏場の車内など30℃を超える場所に放置すると、溶けて変形し、使えなくなるので注意してください。 「冷所保存」の指示で冷蔵庫に入れる場合も、凍結を避けるため野菜室がベターです。
さて、ここまで「保存期間」と「保管方法」の話をしてきました。 「じゃあ、坐薬は1年大丈夫そうだから、次に熱が出たら使おう」 そう思われたかもしれません。
ですが、最も強くお伝えしたいのは、「症状が似ていても、自己判断で残り薬を使わないでください」ということです。
こどもの症状は、非常に変化しやすいのが特徴です。 例えば、前回は「ただの風邪」だった咳。でも、今回は「気管支ぜんそくの初期症状」や「肺炎」の咳かもしれません。 前回は「ウイルス性の胃腸炎」だった下痢。でも、今回は「細菌性の食中毒」かもしれません。前回の風邪薬を今回のぜんそく発作に使っても、効果がないばかりか、適切な治療(吸入など)の開始が遅れてしまいます。 「同じ症状=同じ病気」とは限らないのです。私たち小児科医は、喉の様子、胸の音、お腹の張り、そしてご家族からのお話(エピソード)を総合して、その「今回」の診断をしています。
こどものお薬の量は、非常に厳密です。そのほとんどは「体重(kg)あたり、何mg」という計算式で決まっています。
3ヶ月前に10kgだったお子さんが、今は12kgになっているかもしれません。 たった2kgの違いでも、お薬の種類によっては、必要な量が変わってきます。 以前の薬を使うと、量が足りなくて効果が出なかったり、逆に(まれですが)多すぎて副作用が出たりするリスクがあります。
先ほどお話しした通りです。保管方法が適切でなかったり、保存期間を過ぎたりしたお薬は、もはや安全とは言えません。そんなものを、病気で弱っているこどもに飲ませるのは…どう考えても体に良くありませんよね。
お薬は、こどもの「今、ここにある苦痛」を取り除く大切なツールです。 しかし、使い方や保管方法を間違えれば、そのツールはかえってこどもを危険にさらすことにもなりかねません。「もったいない」というお気持ちは、物を大切にする日本の素晴らしい文化です。ですが、こと「お薬」に関しては、その考えは一度リセットしましょう。
お薬は、その時の病気を治すために「使い切る」のが基本。 残ったら、それは「お守り」ではなく「廃棄する」のが基本。
私たち小児科医は、その都度、その時のお子さんの体重と症状に「最適」なお薬を考え、処方しています。
「これは、まだ使えるかな?」
「この症状、前と同じかな?」
「この薬、冷蔵庫で合ってる?」
そう迷った時は、かかりつけの薬剤師さんに相談するのもよいです。
【記事のまとめ(結論)】
【SNSでも情報発信中!】
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Instagram: 武蔵小杉 森のこどもクリニック小児科・皮膚科
当院の外観写真
日本医科大学医学部 卒業、順天堂大学大学院・医学研究科博士課程修了、国立国際医療研究センター小児科勤務、東京女子医科大学循環器小児科勤務
医学博士、日本小児科学会小児科専門医、日本小児科学会指導医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、そらいろ武蔵小杉保育園(嘱託医)、にじいろ保育園新丸子(嘱託医)